アラムナイ・ストーリーズ第24回 – 中川沙和さん
中川沙和さんは1999年にICUを卒業し、以来複数の大陸で生活し、金融界でキャリアを築いてきました。現在はケニア・ナイロビに拠点を置き、インパクト投資とソーシャルイノベーションに焦点を当てたアドバイザリー企業「ThreeArrows Impact Partner」を運営しています。
ICUへの進学を選択したことは、私の人生の分岐路のひとつと言えます。大学進学のために日本に帰国するというのは中々難しい決断でした。私は中学生の頃から父の仕事の関係で家族とアメリカに住んでおり、大学もそのまま現地の友達と共にカリフォルニアに残りたいと思っていたのです。そんななか、一時帰国中にICUを訪れた際、桜が咲き乱れるキャンパスの美しさに感動したのを覚えています。また、アドミッションオフィスの方々の親しみやすい対応にも勇気づけられました。
その当時の私は予想もしていなかったのですが、ICUは日本とアメリカ以外の国々で暮らし、仕事をする機会を与えてくれました。また、今でも私の人生を豊かにしてくれる生涯の友人関係をICUで築くことができました。
ICUでの日々
私は作家になるのが夢だったほど、幼い頃から読書や執筆が大好きでした。そのため大学では文学を専攻しました。ICUでの最初の思い出は、斉藤和明先生の英文学の授業を受けたことです。先生の教え方、ユーモアのセンス、そしてスコットランド訛りの英語に感銘を受けました。C-Weekには、斉藤先生ご夫妻がご自宅に私たち学生を招いてくださりました。授業外で先生方と交流ができるのはICUならではの貴重な経験です。
図書館で勉強する時間以外は(その後マクドナルドで勉強しているとき以外も!)、かき揚げフリッターズ(4月生、9月生、OYR生をかき揚げのように繋げようとするサークル)、イヤーブック、スペイン語協会、ICU祭など、さまざまな活動に参加しました。ICUのコミュニティは本当に多様性に富んでいたため、帰国子女の私にとって日本で新たな生活に溶け込むのは苦ではありませんでした。そして、さらに異文化を学ぶことに興味を持つようになりました。小川貴士先生のもとで夏期日本語教育のアシスタントを務め、世界各国からの参加者をサポートしたことは、大切な思い出のひとつです。
3年次にはマドリードに留学しました。ガルシア・ロルカを読み、美術館を訪れ、スペイン内外の歴史的な町を探索し、セビジャーナス踊りを学んだ素晴らしい1年でした。冬休みには、ICUの友人を訪ね、オランダ、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、ドイツを列車で旅しました。魔法のような1年を過ごした私を待ちかまえていたのは、日本の悪評高き 「就活」でした。1999年はいわゆる「就職氷河期」の真っ只中でした。次から次へと届く不採用通知。暗い色のスーツを着て、他のみんなと同じように振る舞うのが息が詰まるように感じました。不安と自信を失う中、文学への興味も薄れていき、卒論を書くのさえ自己満足のような気がしていました。そして、自分の好きな学問が、ICU卒業後の実社会に貢献する手段になっていないことに気づき、葛藤したのです。
ICU卒業後
卒業後、幸運にもニューヨーク証券取引所のアジアパシフィックオフィスでインターンシップをする機会を得ました。金融や経済学の知識がない私を、上司はチャンスと捉えてくれたのです。内幸町にあるビルには、多くの国際機関がオフィスを構えていました。受付に飾られていたロゴを見て、私もこのような国際機関に入り、社会に貢献したいと強く思うようになりました。このインターンシップがきっかけで、東京とロンドンの投資銀行、そしてワシントンDCの世界銀行グループ国際金融公社(IFC)と、偶然にも金融業界で働くことになったのです。新たに身につけた金融のスキルによって、積極的に社会に貢献できるようになったことをありがたく思っています。
IFCで新興国における民間教育事業やヘルスケア事業への融資に3年近く携わった後、国際関係学と経営学の修士号を取得するためにニューヨークへ渡りました。ワシントンDCとニューヨークでは、運良くICU時代の友人に再会したりICUの幅広い同窓生ネットワークに関わることができました。当時駐米大使夫人であった加藤花世氏(ICU卒業生)が主催する日本大使館でのレセプションに出席したことも、良い思い出の一つです。
修士課程修了後、私は当時付き合っていた彼(現在の夫)のいる南アフリカのヨハネスブルグに引っ越しました。現地の投資銀行で働いた後、投資とビジネスを通じてインパクトを与えることに自分のキャリアを再び集中し始めました。アパルトヘイトの影響が今も根強く残る南アフリカで、黒人の起業家が立ち上げたビジネスや社会的企業に投資する、インパクト投資会社のCEOを務めました。2018年には、インパクト投資とソーシャルイノベーションにフォーカスしたアドバイザリー企業「ThreeArrows Impact Partner」を設立しました。キャリアは文学から離れましたが、今でも読書は好きですし、インパクト投資について執筆することも楽しんでいます。
12年間南アフリカに住み、多文化で育つ私達の2人の子供達はヨハネスブルグで生まれ育ちました。2021年に私たちはケニアのナイロビに引っ越しました。新たに始まるケニアでの冒険を楽しみにしています。
振り返れば、ICUで蒔かれた種が現在のグローバルな人生とキャリアに繋がっています。同じ志を持つICUの仲間たちと長年にわたって友情を育んでこられたことは、私の人生における財産です。今でも私はICUの仲間から学び、刺激を受け続けています。