アラムナイ・ストーリーズ第25回:エイハーン大木みな子さん
今回はICU1982年卒業生で、米国ジョージア州の日英二言語イマージョンを実施するチャータースクール、ジョージア・チャーター学院(International Charter Academy of Georgia)創立者のエイハーン大木みな子さんにお話を伺いました。
大木さんとICUとの繋がりはご本人が生まれる前に遡ります。スイス出身の神学者、エーミル・ブルンナー博士がICUで教鞭を取っていた時(1953〜1955)に、博士のアシスタントを勤めたのが父上の大木英夫さんでした。そして戦後わずか10年後にご両親共に米国より奨学金を得てニューヨークのユニオン神学校へ留学する機会に恵まれ、留学中に生まれたのがみな子さんでした。(写真左:ブルンナー博士と大木英夫氏、写真右:生後間もない大木さんとご両親)
日本へ帰国し小学校教育を受けた後、父上がケンタッキー州の神学校へ招かれたのに伴い渡米。学校初日は英語が全く理解できず、食堂でのランチは何も食べられなかったことを今でも鮮明に覚えているそうです。この時の経験が後年米国で校長職に就いた時に役立ちました。ケンタッキーで半年ほど過ごして帰国。大学はICUへ進学し、English Play Studioというグループに参加、舞台「星の王子さま」では主役の王子役を演じました。この作品は東京大学、ICU、青山学院大学、 東京外語大学の4大学が参加するTIAF(英語劇コンテスト)で最優秀賞を受賞。「振り返ってみると、私の人生には、いつも素晴らしいチームとの出会いがありました。 目標が達成できたとき、それは自分一人の力で成し遂げたのではなく、チームワークから生まれたものでした」。
ICUのプログラムで一年間留学したジョージア州のウェズリアン・カレッジではパイプオルガンに関心をもち、オルガン演奏を学びました。ヨーロッパへも留学して学びを深め、米国、スイス、日本の教会でパイプオルガンを演奏。「様々な要因からオルガン奏楽は続けませんでしたが、各地の教会で奉仕することが出来たのは一生の宝物です」。(写真左:留学に旅立つ空港で、大木さんと母上の泰子さん、写真右:スイスでパイプオルガンを演奏する大木さん)
スイスから米国に戻った後、教育の世界へ進み、長年Dual Languageの学校で校長を務めました。ある日、州立のチャータースクールを始めるというアイデアが頭に浮かびました。チャータースクールとは、従来の公立学校では難しい様々な教育課題に取組むため、親や教員,地域団体などが州や学区の認可(チャーター)を受け、公費で運営される学校です。州や学区の法令・規則の適用が免除され、一般の公立学校とは異なる方針・方法による教育の提供を可能とします。大木さんのアイデアは日本語と英語の二か国語のイマージョン教育を提供する小学校でした。イマージョンプログラムとは、二言語にどっぷり浸かった環境(イマージョン)で言語のみならず、一般教科も学習するプログラムのことです。
「この時も様々な国から来た人たちが集まり、知恵を出してくれました。山あり谷ありで、もうダメかと思うような大きな危機にも、チームワークで諦めずに取り組んだおかげでチャータースクールは認可されました。日米両国の多くの人達、夫や子ども達、両親の応援なしには乗り越えられなかったでしょう」。2018年に開校したジョージア・チャーター学院(ICAG)では、異文化を尊重し、日本語を話す子どもと英語を話す子どもがツーウェイで助け合う協働学習を大切にし、現在日本語50:英語50の割合で授業を行っています。英語と日本語の教師がチームとなり、文科省指導要領の教育内容を取り入れたハイレベルな日本語教育とESOL (English for Speakers of Other Languages)の二カ国語教育を実践しています。
ICAGファウンディングメンバーと(右から4人目が大木さん)
「チャーター学院創立後に、国際社会への視野を広げ、世界中へ平和を広めるグローバル市民を育成するという学院のミッションがICUの使命にとても良く似ていることに気が付きました。ICU時代に学び、身につけた価値観に深く影響を受けていたのです。ICU時代に出会った全ての人々に心から感謝しています」。昨年引退されて現在は東京在住の大木さん、いつの日か、難民キャンプでボランティアをして子ども達の母語と新しい場所での言語の二言語を同時習得するチャンスを提供したいという夢を持っているそうです。「今年は、キング牧師のワシントン大行進から60年を記念する年ですが、多様な背景を持つ人々が集まり、行進が平和に行われたことを顧みて、子ども達の将来の歩みも同様であるようにと願っています。」
平和と奉仕を目指す精神は今も昔も変わっていません。
大木さんとご家族