シリア人奨学生サラ・ジャリさんがICUを卒業

サラ・ジャリさんは、2020年にJICUFとICUが共同で提供するシリア人学生イニシアチブ(SSI)奨学金の受給者に選ばれました。SSIは、国外への避難を余儀なくされたシリア人学生のための全額奨学金であり、2018年から2022年の間に7名の学生が採用されました。
新型コロナウイルスの影響で2020年夏に日本に渡航できなかったサラさんは、入学を半年間延期し、2021年4月にICUに入学することを決めました。彼女はトルコのガズィアンテプの自宅で、毎朝3時に起きてJLP(日本語教育プログラム)の授業を受講し、淹れたてのコーヒーを片手に乗り越えました。
そしてついに2022年4月、サラさんは、翌年にSSI奨学生として採用されたアフメット・アルハドバンさんと共に、日本へ渡航しました。それから3年がたち、サラさんはICUで必要な単位をすべて取得し、今月正式に卒業を迎えます。
2024年12月にシリアのアサド政権が崩壊したことを受け、サラさんは祖国の再建に貢献するため、シリアへ帰国することを決意しました。現在はガズィアンテプに戻り、夫・ラシドさんとの再会を果たしています。そしてダマスカスでは、NGO「Mercy Without Limits」のメディア・スペシャリストとして働く予定です。
サラさんに、ICUでの経験について記事を書いてもらいました。サラさん、ご卒業おめでとうございます。あなたと出会い、成長を見守ることができたことを、心から光栄に思います。
みなさんは、刑務所にいたことはありますか?私はあります。
私は一時期、夢や希望、そして普通の生活から引き離され、まるで刑務所にいるような気持ちで生きていました。それは、「難民として生きる」という刑務所でした。自由に外に出て動くことはできましたが、どこへ行っても、愛するものすべてから離れ、夢を追うことができない状態でした。私の夢は、ただ大学生になりたいというものでした。大学生として学び、知識を深め、友人を作ること。それが私の願いだったのです。
2019年、何年も大学に入ろうと挑戦し続けた結果、一瞬だけ希望を失いかけました。しかし、まさにその瞬間、私を縛っていた鎖が砕け散りました。JICUFから、ICUで学ぶための奨学金が受給されるという通知が届いたのです。その瞬間、私は数分間動けなくなりました。その後すぐに両親のもとへ駆け寄り、抱きしめました。難民である私が、再び夢を見て生きるチャンスをもらえたことが、信じられなかったのです。
ICUに入学したとき、私は「学べるだけ学び、知識を最大限に広げよう」と決めていました。6年間も教育を受けられなかった分、その遅れを取り戻すつもりでした。しかし、ICUでの成長は、単なる学問の領域にとどまりませんでした。4年間の大学生活で、私は自分自身の変化を感じました。考え方が変わり、より大きな夢を持つようになり、多くのことを学び、友人を作り、人生で最高の思い出を作ることができたのです。

ICUでの最も大きな収穫は「自分のアイデンティティを見つけたこと」でした。長年難民として生きるうちに、人は自分が何者なのかを忘れかけてしまいます。しかし、ICUでは、学生たちが深く考え、議論する機会が多く、世界中から集まった仲間と共に学ぶことができます。その環境のおかげで、私は自分自身を見つめ直すことができました。私は、自分の好きなことや夢、難民になる前の自分、難民としての苦しみ、そして何よりも愛する祖国シリアについて、誇りを持って語れるようになりました。何年も心の奥にしまい込んでいた想いを、誰にも否定されることなく、自由に話すことができたのです。むしろ、学生や先生方から温かい励ましやサポートをたくさん受けました。みんなが愛情と敬意を持って、私の話に耳を傾けてくれたのです。
そして、私が最も驚いたのは、日本での生活とICUでの学びを通して、自分がシリアをもっと愛するようになったことです。ICUに入学したその日から、多くの人がシリアについて知りたがり、シリアで起きたことに関心を寄せてくれました。私は授業やクラブ活動、友人との会話の中で、シリア革命について語りました。そのたびに、私は自分の祖国により強く惹かれ、シリア人であること、そしてシリア難民であることを誇りに思うようになりました。
私は次第に、自分の名前が「サラ」であることを再認識するようになりました。革命に参加し、正義のために闘い、一生懸命学び続け、困難にも笑顔で立ち向かい、「大学生になる」という夢を追い続けたサラ。そして今、私はICUの卒業生となります。誇り高く、強く生きるシリア難民、それが私のアイデンティティです。
ICUで懸命に学ぶ中で、私はいつかこの知識を祖国の再建に役立てると心に決めていました。そしてその夢が、2024年12月8日、シリア解放の日に現実となったのです。卒業の喜びが倍増したのは、「すぐにシリアへ帰り、再建に尽力できる」と気づいた瞬間でした。ICUで得た知識と経験を、そして「新しいサラ」を、シリアへ持ち帰ります。
私は、ICUとJICUFに心から感謝しています。もう一度夢を持って生きるチャンスを与えてくれたことに。私をより強く、より良い人間に成長させてくれたことに。そして、14年間の戦争を経た祖国を、もう一度輝かせるための力をくれたことに。
