チームあすなろ東北応援活動
ICUで人類学を教えられている加藤恵津子先生は、この春JICUFより336,000円の助成金を受賞されました。助成金は、東日本大震災の直後より被災地で復興支援活動に当たっているボランティア組織、「チームあすなろ」の活動にICUの学生を派遣するための経費に当てられています。加藤先生は、日本人の学生はもちろん、ICUのキャンパス内にあるカリフォルニア大学東京スタディーセンターを通して、同大学からの留学生にも積極的に声をかけられ、多様なメンバーの参加を目指しておられます。JICUFからの助成金は、学生参加者の交通費、宿泊費、銭湯代などを賄っています。
「チームあすなろ」代表の須賀信平さんと加藤先生にお話を伺いました。(質問へのご回答は、須賀さんが執筆された後、加藤先生がご確認、加筆されるという形式でご提出いただきました。)
JICUF:「チームあすなろ」は2011年4月に4名で結成されたそうで すが、発起人の4名はどのような方々ですか?
須賀さん:発起人の4人は、私が震災の前から代表をしていたフランス車好きコミュニティー、「チームあすなろ」のメンバーです。宮城に住むフランス車好きの仲間が被災したこともあり、コミュニティーの仲間と復興のお手伝いをしようという気持ちを共有していました。全員社会人です。この4人で初めて活動したのは、2011年6月です。
私自身は1957年生まれで、大学での専攻は機械工学でした。1983年以来、住友重機械工業株式会社に勤め、海外に紙パルプ関係のプラントを建設するプロジュエクトマネジャーをやってきました。現在は発電プラントのプロジェクトに携わっています。大学院時代にドイツに交換留学生として留学し、入社後、社内の留学制度でロンドンに2年間滞在し、2008年から1年間アメリカのニュージャージーに駐在しました。学生時代から海外志向が強く、海外で仕事が出来る今の職場を選びました。
東北の応援に海外からの学生を巻き込んで活動しているのも、海外とのつながりを何かの形で持っていたいという生来の海外志向によると思います。
JICUF:結成の背景とご活動内容について教えてください。
須賀さん:関西出身の私ですが、阪神大震災の折には全くお手伝いが出来なかったことを悔やんでいました。
今から20年ほど前に家族で訪ねて大変お世話になった気仙沼大島の民宿の小山さんご家族が東日本大震災で被災されたことを知り、いても立ってもいられなくなり、東北の応援に踏み出しました。震災直後は、現地の状況も分からず、交通手段もなかったため、ネットでピースボートという団体を探し出し、この団体に参加して震災後初のゴールデンウイークに宮城県石巻市へ行きました。まだ現地には何もなかったため、自分が宿泊するテントや20リットルほどの水を持参しての1週間の活動でした。翌月にも他のボランティア団体に参加して再び同市に赴きました。
当時すでに50歳を過ぎていた私にとって、若者主体のどちらかというと「体育会系」的なボランティア活動は、精神的にも肉体的にも少ししんどく感じられるようになった一方で、応援活動は継続したいという気持ちがあり、すでに5年近く代表を務めて気心知れている「チームあすなろ」の仲間とならば、長期的に活動できるのではないかと考えつきました。メンバーに諮ったところ、私を含む4人が賛同し、第1回の活動を2011年6月におこないました。他のボランティア団体を通しての活動は石巻周辺での活動でしたが、「チームあすなろ」の第1回の活動では、小山さんの仮設がある気仙沼で復興のお手伝いができ、ようやく念願が叶いました。
活動内容は、時間と共に変わってきました。震災のあった2011年末までは、主として側溝や住宅に入り込んだ土砂の除去やがれき類の撤去等,俗に「クリーン」と呼ばれる体力を使う作業が主体でした。震災から時間がたつに従い、これらの作業は被災地の方々にとって貴重な収入源となったため、私たちボランティアは被災地の方々の「仕事」を奪わぬよう、他の貢献方法を模索しました。
被災地の方々とも相談をした結果、2012年の3月から、以下の2つを新たな応援活動としました。
(1) 漁業の応援(ワカメ、牡蠣、ホタテ、海鞘の養殖のお手伝い等)
(2)仮設住宅のお年寄りへの心のケア(足湯、出張落語会、出張写真館、仮設のお掃除等)
この他、夏に被災地の小学校でバーベキュー会を開催したり、クリスマスには子供達にプレゼントを贈ったりもしました。
2013年半ば頃から、参加メンバーに変化が出てきました。
震災からの時間の経過に伴い、応援活動の主体であった社会人は徐々に現場から離れ、社会人主体の応援活動の継続が難しくなってきました。とはいえ、被災地に毎月継続して行くことの重要性を強く感じていたため、社会人に代わるメンバーを探さなくてはなりませんでした。このとき、学生が大きな力になり得ると考え、学生のボランティア団体とのコラボを模索し、今につながるYouth for 3.11とのコラボが実現しました。当時Youth for 3.11は、大学生のボランティアに交通費の補助をしており、これを利用して多くの大学生が活動に参加してくれました。
私にとって、フランス車の次の趣味である自転車のイベントで知り合ったカリフォルニア大学東京スタディーセンターのスタッフから、日本に留学するカリフォルニア大学の学生達にも、東北応援活動を通して日本について知ってもらえたら嬉しいとお聞きしました。同センター長のミリアム・ワトルズ先生にも応援いただき、ICUにて、留学生向けに「チームあすなろ」の東北応援活動の説明会が実現し、2013年11月には、初めて留学生たちに活動に参加してもらいました。
しかしながら、Youth for 3.11からの交通費補助は、2014年にはなくなることが決定していました。交通費補助がなくなれば学生の参加が難しくなるため、新たなスポンサーを探していたところ、活動に参加したカリフォルニア大学生のデレック・ヤマシタさんからJICUFを紹介され、2013年末にJICUFを訪問し、「チームあすなろ」の東北応援活動について説明させていただきました。翌年、ワトルズ先生とショウン・マラーニー先生が協議され、JICUFに「チームあすなろ」への交通費補助の提案書が提出され、2014年6月より1年間、JICUFに交通費を補助していただくことになりました。
JICUF:加藤先生と須賀さんはどのようなごきっかけで知り合われたの ですか?
須賀さん:JICUFの交通費補助が2015年5月までだったため、活動を継続するには、それ以降の支援者を再び探さなくてはなりませんでした。そのような中、1960-61年にICUに留学生されたキャロリン・トレッドウェーさんが東日本大震災後の状況視察のために来日されました。キャロリンさんは、来日に先立ってJICUFに連絡され、「チームあすなろ」の活動にご興味を持たれて私に連絡をくださいました。2014年11月の雨の降る寒い夜、ICUの学食でキャロリンさんにお目にかかり、活動の支援者を探している旨お伝えしました。私たちの活動に賛同してくださったキャロリンさんは、ICUの加藤恵津子先生に連絡してくださいました。
加藤先生は当時、大震災とリベラルアーツ教育をつなげようとする教員有志ネットワーク、ACT (Actions of Concerned Teachers)の連絡係を務めていらっしゃいました。キャロリンさんからのメールを受け、加藤先生はすぐにご連絡くださり、お忙しい中いろいろな可能性を調べてくださいました。その後、JICUFからICUに対し、2016年に新設される助成金の案内が届き、この制度を利用して加藤先生が助成金の応募をしてくださいました。この親切な計らいのことは、後日先生から助成金の授賞が決まりましたとのサプライズメッセージをいただいて知るに至りましたが、私のような学外の風変わりな人間の活動に共鳴してくださった先生には、感謝の気持ちに堪えません。私以上に変わったICUの皆さんのサポートによって助成金の授賞が実現した嬉しい瞬間を、今でもはっきり思い出すことが出来ます。
このように、JICUFとの関係は、ICU構内にあるカリフォルニア大学東京スタディーセンターのワトルズ先生から始まり、55年近くも前の留学生であるキャロリンさんを経て、ICUの加藤先生につながり今に至っています。これまでお世話になってきた多くの方々に対し、今さらながら感謝の気持ちでいっぱいです。この場をお借りしてお礼を申し上げます。
JICUF:ICUの学生が初めて参加した「チームあすなろ」の活動について教えてください。
須賀さん:ICUの学生が最初に活動に参加したのは、2013年11月の活動で、「チームあすなろ」のブログで詳しく紹介されています。
JICUF:「チームあすなろ」のご活動に、これまでに何人の方が参加されましたか?ボランティアの方々は主にどのようなバックグラウンド の方ですか?また、どのように募集されているのですか?
須賀さん:これまでに参加した社会人は約150名、 学生は約120名 総数で300名弱だと思います。
社会人は、サラリーマンが大半です。SNSや、被災地での応援活動を通して知り合い、つながりが出来て、活動に参加してくれました。学生は、Youth for 3.11がコラボを開始した2013年5月以降、彼らのサイトで募集をしてくれています。最近のものですが、こちらで募集の概要がご覧いただけます。
JICUF:過去5年間活動されてきた中で、最も印象に残っている出来事は何ですか?
須賀さん:2013年7月におこなった鮎川小学校でのバーベキュー大会です。子どもたちは、魚は食べ飽きています。「肉を食べさせてやりたい」という親御さんたちの声を聞き、「チームあすなろ」のメンバーにカンパを募って実現しました。
「この子達の今日のテンションは半端じゃないです。こんなに大勢の子供が集まって全員で外で遊んでいるのは震災以来初めて見ました。震災後、子ども達がこんなに笑うのを見たのも初めてでした」と、先生方に喜んでいただきました。一緒に参加された父兄の方々も子どもたちの笑顔を見て喜ばれ、子どもたちの笑顔がご家族のみんなを幸せにしてくれることを知りました。この日のレポートはこちらとこちらでご覧いただけます。
JICUF:今回助成金の対象となったプロジェクトでは、今年4月から 毎月2名ずつ、合計20名のICUの学生が復興支援活動に参加する予定だそうですが、 8月までにすでに10名参加したことになるでしょうか。毎回日本人学生と外国人学生を2名ずつ選考されているのですか?どのような学生を優先的に選んでいらっしゃいますか? 参加希望者は大勢いますか?
須賀さん:”First come, first serve”を基本にしており、早い者勝ちです。参加者の選考はおこなっておりません。しかしながら、比較的お金に余裕の無い、アジアからの学生には活動に参加してほしいと考えています。参加希望者は、8月末までで4名です。9月には2名のICU生が参加の予定ですが、まだまだ足りません。この記事が多くの方に読まれて、多くの学生が参加希望を出してくれるのを待っています。
JICUF:「チームあすなろ」の今後のご活動や目標について教えてください。 また、 北米のICU卒業生やドナーへのメッセージがあればお知らせください。
須賀さん:JICUFからの助成金を使っての東北応援活動は、2017年3月末まで継続します。
この期間については、以下の活動を継続していきます。
(1) 週末の活動として、他大学の学生や他国からの留学生、学外の日本人との共同生活を通して、日本ならびに他国の文化を知る機会を提供します。特に、比較的お金に余裕の無いアジアからICUに来ている留学生に参加の機会を提供したいと思います。
(2) 応援活動の継続を通して、今回のような未曾有の被害をもたらした天災からの復興を目撃することにより、被災者が直面する社会的、個人的な問題を学ぶ機会を提供します。
今後の学生への参加呼びかけは、カリフォルニア大学東京スタディーセンターの伊藤順子先生やスタッフのみなさん、およびチームあすなろの活動に参加した10名ほどのICU生を通しておこなうと同時に、一般教育科目「『災後』の人間・社会・文化 」(Human, Society and Culture in Post-disaster Era, 2015年より開講、担当は加藤先生、西尾隆先生、山口富子先生)を通してもおこなっていきたいと思います。
週末だけの活動ではありますが、日本や他国からの留学生との共同生活は、他国の文化を知り、それを理解するという、寛容の精神の醸成につながると考えています。そして、異文化間の理解に基づく交流は、世界にはびこっているテロリストの最も忌み嫌い,恐れることだと考えています。とても小さな「チームあすなろ」の活動ですが、テロリストへの、このメッセージを学生達に伝えながら、活動を継続していきたいと考えています。引き続き、支援者の皆様からの活動への資金的な応援をお願いできれば嬉しく思います。
JICUF:5年間活動を継続してこられたこと、素晴らしいと思います。
須賀さん:活動を継続出来ているのは、被災地からいただく元気なんです。活動前には、メンバーみんなで話して、頑張ってお手伝いするぞ!という意気込みで出かけるのですが、元気を渡して疲れ切って東京に帰り着くのではなく、出かける時以上に元気になって毎回帰って来ているんです。不思議なものです。活動を通しての 「人と人との気持ちの通い合いがもたらす元気」の気持ちの良さを体験したら、それはきっと体に染み付いて、忘れることのできない気持ち良さの根っこを植え付けてくれると思っております。この様な体験をした若者たちなら、東北まで行かずに、自分たちの住んでいる場所にいて、気持ちの通い合いによる元気のことを思い出して、地域社会の潤滑剤となってくれると信じております。私の継続の力は、若者たちの中に眠っている生きる元気の源にスイッチが入るのを見る喜びなのかもしれません。
JICUF:「チームあすなろ」の素晴らしいご活動につき、インタビューに応じていただきありがとうございました。今後一層のご活躍をお祈りいたします。
チームあすなろ」の活動に参加した学生は、後日レポートを提出しています。
6月に活動に参加したカリフォルニア大学サンタバーバラ校からの留学生、ローレン・ヒガさんは、「『チームあすなろ』の東北での活動に参加したことによって、2011年の震災が地域にどのような影響を与えたかをよりよく理解することができました。また、活動に参加しなければ訪れる機会がなかったであろう地域に触れることができました。表面だけを見て終わる旅行ではなく、小さくても意味のある貢献をすることができて良かったと思います」と語っています。ローレンさんが参加した活動の概要は、「チームあすなろ」のこちらの記事で、また彼女のレポートはこちらからご覧いただけます。
また7月に活動に参加したカリフォルニア大学バークレー校のウェーバリー・ラニオンさんからは、次のようなコメントをいただいています。「『チームあすなろ』の活動に参加できたことは素晴らしい経験でした。信さん(注:須賀さんのこと)がきめ細かくサポートしてくださったお陰で、私も他のボランティアも3日間のプログラムに思いきり取り組むことができました。信さんは、私たちに地域の歴史を説明してくださり、地元のご友人にも紹介してくださいました。このようなボランティア活動に取り組む際、活動の対象となる方々と接する機会がないケースが多いと思いますので、今回の経験はとても特別で、忘れられないものでした。」
ウェーバリーさんが参加した活動はこちらの記事で、レポートはこちらからご覧いただけます。
なお、「チームあすなろ」は引き続きボランティア活動への参加者を募集しています。在校生はもちろん、卒業生や教員の皆様も、是非チーム代表の須賀信平さんにメールまたはフェイスブックを通してご連絡ください。