2018年度Global Link China参加者が感想を語る
3月7日から20日にかけて、国際関係論准教授スティーブン・R・ナギ先生が6名のICU生を連れて、2018年度のGlobal Link Chinaプログラムを実施しました。本プログラムは2016年11月にも「日中ユースリーダープロジェクト」という名の下で実施され、日中の若者同士の交流を通して、日中関係に対する理解を深めることを目的としています。14日間のプログラムで、学生たちは北京、上海、南京の3都市を訪れ、中国の大学で講義を受けたり、地元の方々と交流して中国に関する新しい知識を得ると共に、一般市民の世界観や日中関係に対する考えに触れました。ICU生は、教室の中だけでなく、食事会や名所訪問などを通して、中国の大学生と対話しました。プログラムでは、万里の長城、天安門広場、紫禁城、王府井市場、豫園などの名所も訪れました。また、参加者は各自関心のある分野で短期研究プロジェクトに取り組みました。以下、6名の参加者に書いてもらったプログラムの感想をご紹介します。中国のご家族を訪問中だった谷葉純さんは、現地でプログラムに加わりました。
宇田川藍佳(うだがわ あいか)
北京・上海・南京という中国(大陸)のなかで政治的・経済的・歴史的にもっとも重要な三都市での二週間は、この国の経済発展の勢いと人々の国の将来に対する自信と希望を肌で感じさせてくれた大変刺激的で濃密な時間でした。最も印象に残ったのは、旅で出会った多くの人が、「中国の主張が「西洋諸国」から理解されていない、もしくは誤って理解されている」と語ったことです。経済成長とその政治的影響力が拡大している中国について語るうえで、日本語・英語の言説をより批判的に分析し、また、中国政治とその複雑さを理解する必要を痛感しました。
私の研究テーマ「日中関係における歴史認識問題の所在」については、多くの「生の」経験(研究者によるレクチャーと質疑応答や中国人学生との会話、そして南京抗日大虐殺博物館見学など)をとおして、歴史認識を巡る議論が、二国間の外交上の問題であるばかりでなく、「東アジア」地域の覇権政治や日本の内政問題など、より多角的な視点から考察される必要があると感じました。また、歴史認識問題は早急に解決されるべき問題である一方で、他方面での両国の協力を一層強化することも、その解決を促す土壌を作る上で重要であると考えました。
海野日向子(うんの ひなこ)
このスタディツアーは期待以上のものでした。短期間で中国とその人々、文化、政治、歴史について多くを学ぶことができました。また、日本についても学びました。中国の研究者の講義を聞いたり、博物館や寺院を訪れたり、街を歩きながら先生方や学生、一般市民の方々と交流して、これまでとは異なる、より現実的な視点から中国を見る貴重な機会を得ました。日本人である私にとって、中国を理解するのは想像以上に困難でした。日本の公立校での教育を受けた私は、社会規範や日中の政策について、中国の学生とはまったく異なる考えを持っていることに気づきました。中国を正しく理解するための第一歩は、まず違いを認めることだと考えました。中国の学生とは中国社会や政治に対する意見が異なり、困惑することもありましたが、有意義な会話もできました。中国について親切に教えてくれ、日本人に敬意を表してくれた中国の人々に心から感謝します。
この旅行は、自分の国やアイデンティティ、そして日中関係に対する自分の理解を再考するきっかけになりました。中国の人々は、私がこれまで政治システムや民主主義、理想的な社会について考えたこともなかったことを教えてくれました。彼らの意見を聞き、これらのテーマについて、偏見や、学校で教えられたこととは切り離して考えてみたいと思いました。自分が「常識」と考えていたことについて、オープンなアプローチが必要だと気づきました。自分の知識を客観的に捉えることにより、中国との比較を通して日本やその政治について学ぶことが可能になりました。
中国で過ごした時間は新しい発見に満ちており、ツアーを通して中国への親近感が増しました。中国に引率してくださり、私たちを教えてくださったナギ先生に感謝します。
佐野貴大(さの たかひろ)
自分の最も記憶に残っている経験は中国外交学院と南京大学の生徒たちと日中関係、相互の文化、歴史認識について議論したことです。このような議論は中国人が日本に対してどのように考えているのかを知ることができたので非常にいい機会でした。文化における議論では、その生徒たちは中国人は日本の文化に対しては好意的だけど日本人の歴史認識に対しては懸念を感じていると話していました。日本人の中国に対するイメージはマイナスである一方中国人の日本に対するイメージはある程度プラスであるという風に感じました。このような議論を通して自分は、日中関係を改善・深化させるには心からの相互理解と正確かつ適切な歴史に対する双方の理解が必要であると感じました。
より個人的なことでは、中国の歴史を学んだり中国の教授たちに質問できたことも自分にとって非常にいい機会でした。歴史や文化は国の国際関係を形成する上で非常に重要な要素であり、この研修を通して寺院や博物館を訪れたことでなぜ中国が国際社会であのようにふるまうのかを理解できました。さらに自分の質問の目的は中国人がどのような解決策を日中関係における問題に対する最善の解決策だと考えているのかを知ることでしたが、彼らの考えは私が想定していた考えとは異なっていました。彼らは領土問題などの問題を解決するのではなく経済協力に重点を置いていました。彼らの考えと私の考えをもとに、問題の解決よりも相互理解を重視すべきだと自分は考えます。この研修を通して多くの新しいことを学ぶと同時に私たちの知る中国は本当の中国のごく一部に過ぎないということに気が付きました。
明石(クーティ)エリカ美香子
グローバルリンク中国プログラムで北京のあとに行った都市、上海は私にとっては印象的な場所であった。空港からホテルまでのタクシーに乗ってた時の北京と上海の違いに気付いた。暗い北京、またその一方で海辺の上海を比べた時に感じた雰囲気の違いである。私にとって全体的に見た中国の印象は1984年のジョージ・オーウェルの世界と同じくらいのすさまじい公害と監視が厳しい場所だと思っていた。しかし、上海は商業化された近代的な港町で、私は上海に畏敬の念を抱き、そのあたりで多くの写真を撮ったが、興奮した観光客のこの気持ちは、貧困で生きている多くの西部に住んでいる中国人の事を考え始めるきっかけとなった。全体として、上海と他の中国との間のパラドックスは私にとって印象的であった。
中国と日本の歴史的記憶に関する私の研究課題については、中国の異なる地域間の顕著な違いを実現することによって、中国が国家建設の過程にあることは明らかであった。発展途上国である広大かつ民族的に多様な中国から国連を創造し、統一するために、中国は日帝国との戦争の戦時の記憶を利用して国家のイメージやアイデンティティーを創造する必要があった。私は、すべての中国人、若者も含めて、日本に対する強い否定的感情を持っていたと仮定している。中国外交大学の北京の学生と話をした際に、日本のアニメ映画、音楽や様々な日本のソフトパワーの影響で中国人の学生達は日本の文化を好んでいることが明確になった。また、中国人学生も中国政府に批判的で、中国を出たことは一度もないけれど、スマートフォンでV PNを使っている学生がほとんどであった。この生徒と生徒との対話を通じて、私は大学生としての相違よりもむしろ類似点を感じた。
山﨑玲奈(やまざき れな)
このプログラムのおかげで、とても貴重な時間を過ごせました。私は日本とアメリカで育ったのですが、どちらの国でもメディアは中国に対してネガティブで、偏ったイメージ(環境・検閲・政治トラブルなどの報道を通して)を作り上げていると思います。しかし、当然に聞こえますが、自らの足でその国を歩き、そこの国の方と話して見ないと、その国の現状など分かるわけありません。
一番印象に残った思い出は、南京大虐殺記念館に訪れた事です。この記念館は歴史をとてもイモーショナルに伝え、日本人軍を「殺人者」、「野蛮人」や「悪魔」などと表現しました。このナラティブは、長崎や広島原爆資料館と全く異なったものです。日本と中国にとって、同じ歴史が、全く違ったものとして解釈されている現状でした。日本人にとって第二次世界大戦とはアメリカとの戦いが強調されており、多くの日本人は被害者意識を抱えています。しかし、中国の方にとって第二次世界大戦とは、日本帝国主義と戦ったものであるのです。歴史とはなんなのだろうか…真実や事実といったものは、そもそも存在するものなのだろうか…と私は感じました。
異なった歴史解釈がある中、どのようにして日本と中国の間に調和が生まれるのだろうか。この質問は、誰もがまだ明確に答えられずにいる質問です。南京大虐殺記念館を訪れた事で、偏った知識と偏見の危険さ、それと様々な文化の歴史解釈を学ぶ大切さを心から感じました。日本と中国は異なっていると同時に、共通点もたくさんあります。文化の差と共通点を同時に理解する事で、将来の日中関係がより調和へと近づけるのではないかとこのプログラムを通して思いました。
羽田海帆(はねだ みほ)
中国での素晴らしい2週間のプログラムを経て、大学最初の1年間はより充実したものになりました。このプログラムを通して、中国やその文化を偏見なく見ること、そして日本をこれまでとは異なる視点から見ることができました。中国は、私たちがイメージしているような、大気汚染がひどい、騒々しい、攻撃的な国ではなく、友好的で、安全で、開かれた社会でした。私は各国の文化における人格形成に関心があり、旅行中に気づいたことをご紹介します。
中国のプロパガンダは想像以上に激しいものでした。道を歩いていると、あらゆるところに「平等、正義、愛国、富強」などと書かれた看板が目に入りました。また、ある中国人学生の話によると、教室の掲示板の一番上に掲げられる目標は「みんなと仲良く」でも「教室をきれいにしよう」でもなく、「共産党に従え」だそうです。そして、「輝煌中国 (Amazing China)」という中国をより賞賛する趣旨の映画も公開されており、鑑賞しました。このように身近に浸透しているプロパガンダが中国人の思考を形成し、彼らが国、社会、ひいては自分自身に自信を持つようになる原因の一つだと感じました。さまざまな考え方が存在する、多様性を否定しない社会である上で自己主張ができるのであれば、この自信は国の成長を促します。少なくとも、日本人には欠けている点であり学ぶべき点です。南京大学South China Seas 研究所の朱锋教授は、講義の締めくくりにこうおっしゃいました。「日本は、中国や世界を魅了していく自信をもっと持ってください。」私は、自国を誇りに思うことは、他国を見下すためではなく、国がより良い方向に発展していくために重要と考えます。
中国がアジアのみならず、世界の一大勢力であることは疑いの余地がありません。この巨大な勢力を脅威とみなすか、チャンスとみなすかは、日本人次第だと思います。国際政治は本当に難しい問題です。だからこそ、市民レベルで、日本人は本当の中国や中国人を知るべきで、中国人もまた本当の日本や日本人を知るべきだと思います。今後は、積極的に両国の文化を紹介する活動を起こしていきたいと思います。今回中国を訪れる機会に恵まれたことに感謝しています。
谷 葉純(たに はすみ)
日本国籍を持つ中国人として、このプログラムを通して日中関係を新たな視点から捉えることができました。一番印象に残っているのは、中国国際交流協会事務局長の朱锐氏と「一帯一路」(Belt and Road Initiative: BRI)について交わした会話です。Zhu氏との会談の中で、中国のBRIに関する公式声明に触れることができました。このプログラムに参加する前、BRIとそれがアジアの地域主義にもたらす影響についてICUで学んでいたため、中国政府によるBRIの定義を知ることは興味深かったです。当然ながら、これまでのBRIについての知識は、国際的な研究者による学術文献を通して得たものです。今回、国際的視点から見たBRIと、中国国内の視点から見たBRIを比較することができました。
このプログラムでは、これまでに知らなかった中国の側面を知ることができました。主に上海で育ったので、日本の大学生としての中国再訪は、目から鱗が落ちる体験でした。このプログラムが今後も発展し、より多くのICU生が参加することを願っています。