アラムナイ・ストーリーズ第11回 – 石橋朋子さん
石橋朋子さんは1991年6月にICUを卒業した9月生です。現在はカナダ・トロント在住で、この11月にはトロント在住卒業生の第2回同窓会が開催されたそうです。今月は石橋さんに「ICUストーリー」を共有していただきました。
私は父の仕事に伴い、小学校時代をオーストラリアのメルボルン、高校時代をアメリカのヒューストンで過ごしました。アメリカの大学も受験したのですが、高校のガイダンスカウンセラーから、「あなたはアメリカの生活に疲れているみたいだから、ご両親と母国に戻って、日本の大学に通った方が良いのでは?」というアドバイスを受けて、それならば、日本にいても海外のような環境で伸び伸びと教育を受けることができ、かつ少数精鋭の大学が向いているのでは、と両親にICUを薦められ、合格したとわかった時点で、迷わず通うことを決意しました。
9月入学の「セプテンバー」組は親の海外転勤に同伴している帰国子女が多いせいか、皆あちこちで共通の知人がいることがわかり、親近感を感じ、学年を超えてすぐ仲良くなり、「エープリル」の4月生や交換留学生の「ノンジャパ」の学生達とも授業を通して知り合いました。ICUはアットホームで友人がとても作りやすい環境でした。講義の言語も日・英、選べるし、当時バブルの時代で巷の女子大生が「ワンレン・ボディコン」で綺麗に着飾っていた中、ICUの学生はあまりそういった流行にこだわることなくカジュアルな格好で、授業時間の合間はバカ山で寝そべって昼寝をしたり、D館で日本語・英語を混ぜながら友達と語ったりして、夢のような学生生活でした。
私は教育学専攻の「エジュケ」でしたが、第2言語としての英語教育に興味を持ち、主にマーハ教授やデューク教授のコースを取っていました。4年生で公立中学へ教育実習に行きましたが、日本の保守的な学校制度を目の当たりにして、帰国後4年経ち、初めてカルチャーショックを受けました。卒業後、日本の学校で教鞭を執ることに自信がなく、もう少しESL教育を勉強したくて、ロータリー奨学金を取得し、カナダで修士号を取ることにしました。トロントとモントリオールで迷っていたときに、マーハ教授の「生きたバイリンガルの街でバイリンガリズムを学ぶのが良いのでは?」という一言で、英・仏を生活の言葉として使っているモントリオールに決めましたが、このアドバイスは間違っていなかったと思います。修士課程修了後、暫くモントリオールの高校で働いていたのですが、フランス語が流暢ではなかったので、フルタイムの仕事が見つからず、最終的にトロントに引っ越しました。トロントでは残念ながら、専門としていた教職を見つけることができなかったのですが、思い切って分野の全く違う損害保険業界で働くことに決めました。保険の知識は全くなかったのですが、当時雇ってくれた上司が、「保険の勉強をすれば、日系企業のお客様に日本語できちんと保険のコンセプトを説明して、保険会社に英語でお客様のビジネスの詳細を説明できるだろう」とバイリンガルで教師歴があることを評価し、チャンスを与えてくれました。
それから23年経ちましたが、今も保険業界で働いています。2001年のNY全米同時多発テロ事件後にはテロリズム保険、エンロン事件の後はコーポレートガバナンスが見直されたため、取締役保険が注目を浴び、インターネットに依存する昨今ではサイバー保険はもはや必須、今後、Uber・Airbnbなどの共有経済(シェアリング・エコノミー)が発展して、ドライバーレスカーが普及すれば、リスクもまた大きく変わるため、保険も移り変わる時代に常に適応せねばならず、リスク管理に必要な保険種目や付保内容も変化します。刻一刻と変化する状況や企業のニーズを見極め、オープンマインドで柔軟に対応し、話し合いを通して皆で解決策を見つけていく作業には、ICUで学んだリベラルアーツは今でも直接的・間接的に非常に役に立っています。
もうすぐ22歳になる娘が一人いますが、どうしてもバイリンガルに育てたくて、ICUのバイリンガル教育で学んだことをキャリアで活かせなかった分、育児で充分役立てました。ICUで卒論を書いていた際、ICU卒で現在トロント大学の名誉教授の中島和子先生の論文を読み漁っていた時期があり、ご縁があればいつかお会いしたいなと長年憧れていたのですが、なんと娘の通っていたトロント日本語補習校高等部の校長先生になられ、初めてお会いした時には感無量でした。
それ以来、トロントにも意外とICU卒がいることが判明し、去年、初めてICU同窓会が開催され、今月、2回目が開かれました。年齢は一番上と下ではけっこうな開きがあるにもかかわらず、言葉では表現しがたいのですが、不思議と志というか、チャレンジ精神が似ているな、と感じました。皆様、ICU卒業後、興味深い人生を歩まれ、様々な理由でトロントでこうして巡り合ったわけですが、各々の分野でご活躍されていて、新たなエネルギーを頂きました。
小さい頃から数年毎に引越しを繰り返し、自分は故郷と呼べる土地・家がない「根無し草」だから気持ちがフラフラと定まらない等と若い頃、自信がなく悩んでいた時期がありましたが、ICUで受けた教育、知り合った教授や友人から培った価値観はその後の人生にポジティブな影響を及ぼし、半世紀を振り返ってみると、いろんな地で暮らしていても、しっかり地についた考え・人生観を持つことはできるのだと確信できました。学生だった当時は気付きませんでしたが、多感な時期にICUで学んだことが後々に役立ったことは言うまでもありません。生涯友達と呼べる仲間達にも出会えましたし、今でもICUのつながりで素敵な出会いが続いており、今後もどのような出会いが待ち受けているか楽しみです。
石橋さん、ありがとうございました!いつか米加合同同窓会が開催できることを願っています!