JICUF助成金受賞者スポットライト:地ビールを通した沖縄の文化的アイデンティティ形成
JICUFではICUの学生、教員、卒業生を対象に、「サステナビリティ(持続性)」「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)」「平和の構築」3つの理念を基本とするユニークなプロジェクトに助成金を提供しています。2022〜23年度は春・秋・冬の3学期に募集・選考を行い、計37プロジェクトに助成金を提供しました。その中から今回は2022年春学期の助成金受給者の一人、大城瑠奈さんにお話を伺いました。
大橋さんはICU大学教養学部卒業後、同大学院アーツ・サイエンス研究科に進学、公共政策・社会研究専攻、博士前期過程の卒業論文を執筆するにあたり、フィールドワークの資金調達のため助成金を申請しました。論文のテーマは「地域のビールを通じた文化的アイデンティティの形成過程に関する定性的分析」。なにやら難しいタイトルですが、沖縄の文化的アイデンティティがクラフトビール製品を通じてどのように表現され、伝達されているかを探る研究です。沖縄県出身の大城さんはICU祭で沖縄出身の仲間と一緒に沖縄の揚げ菓子「サーターアンダギー 」を作って販売したことをきっかけに、自身の「うちなーんちゅ」としてのアイデンティティを探るようになりました。また、コロナ禍に沖縄に里帰りしていた時に、「日本人とは?(Being Japanese)」をテーマにドキュメンタリー映画を撮影していたカナダ人映像プロデューサー、グレッグ・ラム (Greg Lam) 氏との出会いを通じて、「日本人」と「うちなーんちゅ」、二つのアイデンティティを考えるようになりました。
「それにしても卒論のテーマになぜ地ビールを?」の質問に、大城さんは笑いながら「ビールが好きだから」。そうですね、好きなもの・ことを研究テーマにするのが一番です。大城さんは中学生の時に沖縄県のプログラムでハワイにホームステイしたのを皮切りに、高校時代に米国モンタナ州とドイツにも短期留学しています。そのドイツで初めてビールの味を知りました(ドイツでは法的に16歳から飲酒が認められています)。当時は特に美味しいとは思わなかったビールですが、ICU入学後、ルームメイトの影響でビール好きになったそうで、「今思うとドイツ時代にもっとビールを楽しんでおけば良かった」。
沖縄には本島・石垣島・宮古島に合計11のビール醸造所があり、大城さんはそのうち7つの醸造所を訪れ、取材をしました。大手のオリオンビール(Orion Breweries, Ltd.)以外は全て小規模な醸造所で、それこそ地元に密着したビール作りを行なっています。中にはドイツ人や本土の人が興した醸造所もあり、もし地ビールを「地元民が作るビール」と定義するなら外れますが、外部から来た人間がその地を愛し、そこに雇用を生み出す目的で醸造所を作り、地元民にも観光客にも愛されるビールとなったなら、それはもう立派な地ビールと呼べます。大城さんが醸造所の人にインタビューした中で印象に残る言葉は、「売れなくてもいい」、「下からのビール」。前者からは、大きな収益が出なくても、自分達が納得する沖縄ビールを作りたいという思い、後者からは(大手製造会社からではなく)地域で草の根から生み出すビールにこだわる姿が見えます。
卒論執筆のための旅を通じて、大城さんは沖縄地ビールのアイデンティティのみならず、自分自身の「うちなーんちゅ」、「日本人」のアイデンティティとも向き合いました。そして今春大学院を卒業した大城さんは、世界最大級の民間教育機関の日本法人、EFエデュケーション・ファースト・ジャパン株式会社 (EF Education First Japan)に就職。同社で海外の学生を沖縄に留学させるプログラムを担当できたら、と期待しています。ミクロからマクロへ、アイデンティティ探求を発展させた大城さんにぴったりの仕事ではないでしょうか?今後のご活躍を楽しみにしています。
最後に大城さんから一言。「ICUでの学生生活では色んな方々に大変お世話になりました。とくに、寮生活で出会った素敵な友人たちは、私の心の支えであり、家族のような大切な存在です。それぞれの人生別の道に歩んでいきますが、5年、10年後にでも、美味しいビールを飲みながら、お互い大きく成長した姿をみることができたらいいなと思います。」
大城瑠奈さん