JICUF学生アンバサダーが助成金受賞者をインタビュー:パート1
今春、JICUFはICUキャンパスに日本オフィスを開設したことを記念して、5月中旬にいくつかのオープニングイベントを開催しました。その一環として行われたJICUF助成金受賞プロジェクトのショーケースに参加した方々へのインタビューを2回に分けて紹介します。インタビューを行ったのは学生アンバサダーの神谷歩人さんと斉藤知恵実リンダさんのお二人。まずは神谷さんのインタビューからご紹介します。
神谷歩人(写真:別府直樹)
1.「人類学調査実習と関係人口:鹿児島県徳之島伊仙町との有機的かかわり」森木美恵教授(人類学)
神谷: 鹿児島県徳之島へのフィールドワークはいかがでしたか?
森木先生: 訪問時期が台風シーズンと重なり、フェリーが10日間ほど運休する事態に直面しました。そのため当初予定していた2週間の滞在日程の変更を余儀なくされましたが、鹿児島でフェリー再開を待つ間も徳之島住民との連絡を続け、ZOOMでの交流や鹿児島大学での活動を通じて、多様な経験を積むことができました。10日ぶりにフェリーが動き徳之島に到着すると、住民の皆さんに温かく迎えていただき、学生達は島での暮らしや食文化を直接体感し、それぞれの視点から文化や自然を観察する貴重な機会となりました。
神谷: 今回、二回目の徳之島訪問とお聞きしましたが、一回目と二回目の訪問で徳之島に対するイメージは変わりましたか?
森木先生: 二回目の訪問で気付いた大きな変化は、島全体が一つのユニットではなく、町ごとに独自のアイデンティティが確立していることです。関東にいると島を一つのユニットとして捉えがちですが、実際には3つの町がそれぞれの仲間意識を持っています。一回目の訪問も二回目の訪問も伊仙町でフィールドワークを行いましたが、一回目では他の町に宿泊したため、町民から「次は伊仙町に泊まって」と言われるほど、町ごとのアイデンティティが強いことを実感しました。そのため、徳之島全体ではなく、伊仙町という具体的な視点でフィールドワークを捉えることの重要性を再認識しました。
神谷: 最後に、今後の活動や展望についてお聞かせください。
森木先生: 現在も学部生が論文作成のために徳之島を研究しており、今後も地域との交流を続けたいと考えています。島の学生たちは、小学校から高校まで同じ「同期」として過ごし、高校卒業後は島内で就職するか、大阪などに出て働くのが一般的です。大学生という存在が身近ではないため、今後の交流を通じて、島の新たなロールモデルとなり、高校生に新たな価値観を提供したいと考えています。また、学生たちにも多くの学びを得てもらいたいです。
神谷メモ:台風の影響でスケジュール変更を余儀なくされましたが、ZOOMを使って交流を続けたり、自然の脅威を体感したり、住民との価値観の違いなど多くのことを学んだことが印象的でした。さらに、徳之島は日本でも珍しい硬水のため、滞在中、持木先生は非常に体調が良かったそうです。
2. 「Cross-Cultural Communication, Economy, Gastronomy, and SDGs in Bangkok」アレン・キム上級准教授
プログラムに参加した吉村海飛さんがインタビューに答えてくれました。吉村さんは学部一年生の春にアレン・キム教授の「社会学概論」を履修し、その授業で紹介されたキム教授主催の本プロジェクトに参加しました。
神谷: 実際にこのプロジェクトに参加された感想は?
吉村さん: 約2週間のプロジェクトは非常に忙しかったですが、充実しており、多くのことを学びました。参加者は学年や専攻もバラバラで、私は開発学専攻でしたが、他には文学専攻の学生もいました。このような多様なメンバーと初対面ながらも協力し合い、多くの刺激を受けました。プロジェクトでは、タイの伝統料理を作ったり、伝統衣装を着たり、オーガニックパパイヤ畑を訪れたりと様々な体験を通じてタイ文化を多角的に学ぶことができました。
神谷: このプロジェクトの中で最も学びとなった活動は何ですか。
吉村さん: 一番学びが深かったのは、タイの少年院や孤児院の訪問です。少年院では現場を視察し、収容者に直接話を聞くだけではなく、その家族とも話す機会がありました。彼らは犯罪を犯した人達ですが、快活な人も多く、貧困や家庭環境が犯罪に影響していることを実感しました。授業で学んだ理論が実際の現場と結びつき、考えさせられることがたくさんありました。
神谷: ポスターの中で一番印象に残っている写真は?
吉村さん: プロジェクトの一環として現地の大学生と交流するプログラムがあり、タイの大学生と一緒に食事をした時の写真ですね。日本に興味を持つ学生達と一緒に夕食を楽しみ、深い文化交流ができました。その後、タイで交流した学生が日本に来て、東京を案内する機会もありました。一度きりではなく、継続的な国際交流が実現し、東南アジアに対する興味がさらに深まりました。
神谷メモ: 吉村さんのお話を聞いて、東南アジアに対する強い愛情を感じました。ICUでは留学先としてヨーロッパやアメリカが思い浮かびがちですが、吉村さんの体験を通じて、日本との関わりが深い東南アジアへの興味がわきました。
3.「日本において実現可能なインクルーシブ教育のデザイン化に向けて 〜一人ひとりに寄り添う教育を〜」渡辺宮子(学部生)
インクルーシブ教育とは、「多様な子どもたちが地域の学校に通うことを保障するために、教育を改革するプロセスであり、国籍や人種、言語、性差、経済状況、宗教、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが共に学び合う教育」のことです。
神谷: 渡辺さんはインクルーシブ教育をテーマに大阪府豊中市立南桜塚小学校を二度訪問されましたが、その体験を振り返っていかがでしたか?
渡辺さん: 大阪府豊中市立南桜塚小学校は50年以上前からインクルーシブ教育を実施している学校で、母の知り合いの大学教授の紹介から二度訪問することができました。日本では障害のある生徒は異なる教室で学ぶ、分離教育を受けることが一般的ですが、この学校では支援を必要とする生徒も一緒に一つの教室で学んでいました。分離教育で育った私にとって1度目の訪問は驚きと学びの連続でしたが、2度目の訪問では、生徒一人一人にフォーカスし、より深い観察ができました。
神谷: 南桜塚小学校の訪問で最も心に残っていることは何ですか?
渡辺さん: 南桜塚小学校の子供達には「障がい」という概念も言葉も存在しないということです。子供達は幼い頃から同じ環境で育ち、障がいを持つ友達を特別視することなく、共に生活しています。そのため、彼らの中には「障がい」という言葉の概念がなく、「友達」や「仲間」として受け入れています。このような価値観が自然に形成される環境に感動しました。
神谷: 今まで分離教育が行われてきた日本にとって、インクルーシブ教育を進めることは可能だと思いますか?また、進めるために必要なことは何だと思いますか?
渡辺さん: 分離教育が一般的だった日本でインクルーシブ教育を進めるには多くの困難がありますが、可能だと信じています。まず、支援を提供する人材を増やすことが必要です。担任の先生だけでなく、専門の支援スタッフが必要です。そのため、財源など学校だけではなく、行政が主体となった大改革が必要であると思います。次に、子供達に障がいについて考える時間を設けることです。先ほどは「障がい」という言葉の概念がない子供達と紹介しましたが、全員が全員そうではなく、いじめの対象にしている生徒や悪意がなかったとしても障がいを持っている人が傷つくような発言をしている生徒も存在します。道徳の時間などで障がいを持つ子供達について学ぶことで、偏見やいじめを防ぐことができます。
神谷メモ: 渡辺さんとは同じ授業を履修していたこともあり、このプロジェクトについて話を聞いたことがありましたが、改めて彼女のインクルーシブ教育に対する熱意を感じました。誰にとっても障壁のない学びの空間を目指す姿勢に共感し、私も教育者として推進していくべきであると感じました。
4. 「第1回コミュニティ心理学国際学会」笹尾敏明教授(心理学)
笹尾教授は約25年間ICUに在籍、アジア初のコミュニティ心理学の国際学会を2023年7月にICUにて開催しました。
神谷: 心理学といえば、心の働きなどを学ぶイメージがありますが、コミュニティ心理学とはどのような学問でしょうか?
笹尾先生: 多くの人が心理学といえば、心理カウンセリングや心の働きに関するものを想像すると思います。しかし、コミュニティ心理学はそういったものとは異なります。この学問は「社会全体の中で、みんながどのようにしたらwell-beingを実現できるか」を考えるものです。日本では臨床心理学が主流であるため、心理学と聞くと心理カウンセリングなどのイメージが強いですが、ICUには20年以上前からコミュニティ心理学を学ぶ勉強会があり、国内外の大学と交流を深めてきました。コミュニティ心理学は社会正義を基盤に、みんながwell-beingを達成することを目的としており、社会学や人類学、社会認知学など多岐にわたる分野が関わっています。
神谷: アジア初のコミュニティ心理学の国際学会を開催された経緯を教えてください。
笹尾先生: 日本では心理学というと臨床心理学が一般的で、アジアでもコミュニティ心理学の国際学会はこれまで開催されたことがありませんでした。そこで、日本で初めての国際学会を開催しようと考え、この勉強会の拠点であるICUで行うことにしました。
神谷: 今後の展望について教えてください。
笹尾先生: ICUの勉強会は小さな組織からスタートしましたが、今では東大や京大などとも連携するようになりました。また、日本だけでなく、イギリスなど海外の研究者とも関係を築き、ますます大きな組織になってきました。今後もこの団体をさらに発展させ、多くの人と関わりながら、日本のコミュニティ心理学をリードしていきたいと考えています。
神谷メモ: 私自身、心理学の授業を受けたことがなく、心理学といえば心の働きを勉強するものだと思っていました。コミュニティ心理学のお話を聞いて、視野が広がりました。
***
以上4名の方にお話を伺うことができました。初めてのインタビュー記事執筆でしたが、JICUFの助成金を受け取った方々から直接お話を聞くことができ、とても良い経験になりました。