JICUF 学生アンバサダーが助成金受賞者にインタビュー: パート 2
今春、JICUFはICUキャンパスに日本オフィスを開設したことを記念して、5月中旬にいくつかのオープニングイベントを開催しました。その一環として行われたJICUF助成金受賞プロジェクトのショーケースに参加した方々へのインタビューを2回に分けて紹介します。インタビューを行ったのは学生アンバサダーの神谷歩人さんと斉藤知恵実リンダさんのお二人。パート1では神谷さんのインタビューをご紹介しました。今回は斉藤さんによるインタビューです。
斉藤知恵実リンダ (写真:別府直樹)
1.「コンポストプロジェクト」丸山結実子(学部生)
ICUコンポストのメンバーで、フィールドトリップに参加した渡辺菜奈子さんと鈴木加奈美さんがインタビューに答えてくれました。
斉藤:九州のどこを訪問しましたか?
渡邊さん:最初に熊本県南阿蘇村で高校生と一緒に農業をしている方を訪ねました。にんじんを掘り、料理して一緒に食べながらオーガニック農業について学びました。その後、大分県黒川温泉でコンポストを利用している旅館を訪ねました。学校よりも食の循環が大きな社会で、どのようにコンポストを導入し、受け入れられ、皆で協力しあっているのか、旅館のスタッフに話を伺いました。最後に大分県別府市の立命館アジア太平洋大学 (APU)を訪問し、コンポストサークルのメンバーと一緒に作業しながら、大学でどのように食の循環と農業を行うのかを学びました。
斉藤:フィールドトリップで学んだことと、サークルとして新しく始めたことはありますか?
渡邊さん: 全体を通して、農業とコンポストがどのようにコミュニティに導入され、機能しているかを学びました。それと同時に、続けていくことの難しさを実感しました。キャンパス内と外では、コンポストの仕組みがかなり異なります。コンポストの可能性とどんな問題があるのか、それを解決するために何が必要なのかを学びました。フィールドトリップから戻り、キャンパス内で畑を始めたのに加え、三鷹の農家にコンポストを引き取ってもらって、作物を育てています。また、今年の4月からは学食の生ゴミの回収も開始しました。
鈴木さん:自分たちが作ったコンポストの活用方法を学ぶことができました。個人的には、APUのコンポストサークルから農業とコンポストをどう結びつけるかを学んだことは大きな収穫でした。彼らの活動を知ったことによって、ICUキャンパス内で農作業を始めました。
斉藤:ICUのコミュニティに伝えたいことは?
渡邊さん:外の世界で新しい人と出会うことで始まることがたくさんあります。学生だけの力では実現が難しいですが、今回はJICUFのサポートを受けたからこそできた経験です。
鈴木さん:助成金をもらったおかげで活動がしやすくなりました。助成金はフィールドトリップの費用のほか、道具代やイベントポスターの印刷代にも使用しました。時間と労力が節約でき、色々なことに挑戦できるようになりました。JICUF助成金のおかげで活動の幅が広がりました。
2.「Succeeding in Academia」と「Sounds of Southern Bantu〜南部バントゥ語の音」、Seunghun Lee教授
ワークショップに参加した大学院生の古澤里菜さんにお話を伺いました。
斉藤:南部バントゥ語のワークショップについてお聞かせください。
古澤さん:ミシガン大学から招いたクツィエ・アンドリス教授によるワークショップとプレゼンテーションが行われ、アフリカ諸語についての研究とプロジェクトについてお話を聞きました。私たち言語学専攻部の学生は必ずしもバントゥ諸語に詳しいわけではないので、皆ワクワクして学びました。
斉藤: 日本語を母国語とする者として、このワークショップとアフリカの音に関するプレゼンテーションについてどう思いましたか?
古澤さん: 言語の変異に焦点を当てていたのでとても興味深かったです。ICUで学ぶ言語学では、言語の変異は主な焦点ではなく、むしろ普遍的な要素を探求します。このワークショップでは生成文法的な視点から言語の変異を分析しました。言語のシステムが日本語とは非常に異なるので、新しい言語とシステムを知ることがとても興味深かったです。
斉藤: ワークショップに参加して今後の研究や勉強に役立ったことは?
古澤さん: これまでは、変異は言語学を学ぶ際の主な焦点ではありませんでしたが、今は変異にもっと焦点を当てています。日本語にも話者内変異が多く存在するので、その側面に興味を持ちました。今では修士論文のテーマが話者内変異に定まったので、このワークショップが私の研究テーマにも影響を与えたと言えます。
斉藤:「Succeeding in Academia」のワークショップについてお聞かせください。
古澤さん: このイベントでは、様々な専攻の学生が集まり、米国の大学院への出願方法や学術雑誌への論文投稿方法について学びました。「学術ジャーナル出版の解明」ワークショップでは、ジャーナルへの論文の提出プロセスについて学びました。アメリカで博士号を取得し、大学院の応募を評価しているコーツィー教授が、言語学ジャーナルの元編集者としての専門知識を共有しました。コーツィー教授はレビュー過程について説明し、提出後に何が起こるかを明確にしてくれました。私は修士課程の2年生で、今後論文を提出し、アメリカの博士課程を考えているため、このワークショップは将来に向けて非常に役立ちました。
3.「クィアの帰属意識:日本におけるクィア女性とトランスジェンダーのための物理的空間の役割を探る」アナ・タットンさん(博士課程2年生)
斉藤: 研究の概要を教えてください。
タットンさん:この研究では、日本におけるクィア女性やトランスジェンダーの人々にとって物理的なスペースの重要性を調査しました。これらのスペースは、主に非営利団体が運営するもので、読書会やコミュニティグループ、会話の場、活動家のサークルなどがあります。私は2023年5月にフィールドワークを開始しました。北海道、青森、徳島、島根の小さなプライドイベントに参加し、そこで多くの人々と出会い、インタビューを行いました。フィールドワークを通じて、大都市と地方の違いや、物理的な空間とオンライン空間における人々のつながりの強さの違い、オンライン空間では得られないが物理的な空間で得られるものについても考察しました。
斉藤: このテーマに興味を持ったきっかけは何ですか?
タットンさん: 修士論文でも同じテーマで、中野にあるグループ「Lesbians of Undeniable Drive(LOUD)」について研究しました。LOUDは最近解散しましたが、30年間活動した団体です。今回はコミュニティスペースの重要性について考えたかったのです。日本のクィアスペースに関する研究は新宿二丁目やバーライフに基づくものが多く、その他のコミュニティスペースに焦点を当てた研究は少ないです。もしあっても、一つのスペースにしか焦点を当てず、他の場所との関係は調べていません。私はその点に取り組み、複数のスペースで行われている活動に注目したかったのです。
斉藤: 研究中にどのようなスペースを訪れましたか?
タットンさん: LGBTの子供を持つ親が他の親と話すための会話スペースや、同性カップルで子どもを持つグループなどです。グループの中には、長い歴史を持つものもあれば、まだ新しいものもあります。
斉藤: 訪れたグループにはLGBTコミュニティをサポートする専門家がいましたか?
タットンさん:一部のNPOやプロジェクトは、LGBTの人々のためにより開かれた良い環境を作るために社会と直接連携しています。例えば、あるNPOは病院プロジェクトを運営し、スタッフにLGBTの人々のニーズに対応する方法を教えています。他には学校と協力してトランスジェンダーの子どもたちが直面する問題について話し合い、教師や学区に生徒にとってより包括的な環境を作る方法を指導しています。
斉藤: この研究から得たことと、将来の目標は何ですか?
タットンさん:クィアの人々にとって物理的なスペースの存在がいかに重要かということを実感しました。物理的なスペースに参加すると同居している人(家族)に自分がLGBTであることが分かってしまうのを恐れて参加できない人もいます。オンラインなら疑念を抱かれずに参加できますが、物理的なスペースの方が人と直接会うことでつながりが強まります。それぞれ良い点がありますが、オンラインスペースだけでは不十分です。将来的には、これらのスペースやグループの資金調達に関する政策決定に関わり、法的保護を受けていない人々にとって、それらの場所や活動がいかに重要であるかを示したいと思っています。 LGBTスペースだけでなく、閉鎖の危機に直面している他のスペースが重要な役割を果たしていることが浮き彫りになります。
4.「行動する平和:インド、バラナシで開催されたユースG20サミット」エリザベス・ガマラさん(大学院生-博士後期課程)
斉藤:インドで開催されたYouth G20サミットのハイライトは?
ガマラさん:それぞれ専門分野を持つ5人で構成されるアメリカの代表団の一員として参加しました。サミットでは各参加国の代表者と会い、彼らの視点や優先事項を学びました。これらはアメリカの視点とは異なり、とても刺激的でした。この会議の成果の一つは、Youth G20に提言する多くの政策提言を含む文書を作成したことです。また、インドの学生、外交官、政府関係者と会い、インドの問題について話し合う機会もありました。
斉藤:サミットの参加者は?
ガマラさん: 参加者は主に若手の官僚、弁護士、コンサルタント、医師などで、学生も少数いました。
斉藤:どのような議題がありましたか?
ガマラさん: このサミットで議論された五つのテーマの中で、私は「平和構築と和解」に関するセッションを担当しました。他の四つのテーマは、仕事の未来、気候変動と災害リスク軽減、共有された未来、そして健康、福祉とスポーツです。具体的には、平和教育、宇宙研究、平和的目的のための研究規制、女性のエンパワーメントに関する政策が、Youth G20の参加者が優先すべき事項と議論されました。
斉藤:このサミットは、他の会議とどう違うと感じましたか?
ガマラさん: ほとんどの会議では議論を行いますが、このサミットでは最終的な政策文書を作成するという明確な目標があります。すべての参加者は非常に確固たる信念を持っており、共通の基盤を見つけることに全力を尽くしていました。
斉藤:すぐに実施すべきだと全員が同意したトピックは何ですか?
ガマラさん:環境問題が最大の焦点でした。大気汚染への対策、環境意識の向上、地方政府、国際機関、草の根組織間の協力による環境プロジェクトへの資金提供、若者主体のフォーラムの向上について議論しました。教育も中心的なトピックであり、多くの国が教育を世界の未来と考えています。持続性を示すことが重要だと全員が考えていました。
斉藤:若者がグローバル社会に参加することはなぜ重要なのでしょうか?
ガマラさん: 若者は問題に取り組むための豊富な経験、専門知識、ネットワーク、アイデアを持っていて、多くの人は大学や母国で自分のイニシアチブを開始しています。そして、このようなサミットで培われる友情はとても貴重です。「友情が外交を築き、外交は相乗効果で行動を生む」という言葉があります。
斉藤: G20サミットに参加して得た教訓は?
ガマラさん:交渉は想像以上に難しかったですが、政策を練るプロセスにおいて非常に重要だと実感しました。「相手の勝利演説が書けるなら、交渉を有利に進められる」という言葉があります。相手の視点を理解することが重要という意味です。他の参加者の視点を理解するためには、多くの資料を読み、彼らの国の歴史を学ぶ必要がありました。また、サミットで築いた友情はとても大切なものとなりました。
斉藤:最後にICUの学生へのメッセージはありますか?
ガマラさん: 自分の意見を主張し、地域社会や国の優先事項を表明する場に躊躇せずに出ていくことを勧めます。
5)「若者の間で対話の文化を築き、社会の意思決定における若者の参加を提唱する」セニャンゲ・アポロ (学部生)
AFS(アメリカン・フィールド・サービス)ユース・アセンブリーは、若者たちが世界中の社会的および環境的課題の解決策について議論し、異文化理解を促進し、リーダーシップスキルを育むための国際的なイベントです。
斉藤: アセンブリーに参加した体験について教えてください。
セニャンゲさん: アセンブリーで私がしたことの一つは若者の声を増幅し、積極的かつ意義ある社会問題の解決策を提唱することでした。国連ハイレベル政治フォーラムやアテネ民主主義フォーラムでは、政策立案者に対して若者の主体性と社会変革の必要性を訴えました。若者の組織を大人が作ることが一般的ですが、私たちは大人が若者のために何かをするのではなく、大人と若者が協働することを望んでいます。この会議で、私は政策立案者や外交官に若者を政策の実施に参加させることを提案しました。
斉藤: 若者の声を拡大したいと思ったきっかけは何ですか?
セニャンゲさん: それは私の個人的な経験です。高校を卒業した時、コミュニティの問題を解決したいと思い、様々なNGOのインターンシップに応募しましたが、若すぎる上に経験が全くないという理由で断られました。ウガンダでは人口の80%が35歳以下の若い年齢なので、人口の80%が問題を解決する機会を与えられていないことに愕然としました。その経験が、若者を動員して変化を起こすための「Signals from the Grassroots」というNGOを設立したのです。若者の参加がなければ解決できない問題がたくさんあると思います。
斉藤: 若者が意見を述べることに関して、日本とウガンダの違いは何ですか?
セニャンゲさん:日本は平和で先進的かつ民主的な国です。日本では高齢化が問題ですが、ウガンダでは若年人口の多さが問題です。日本では大学の卒業後に仕事が保証されていますが、ウガンダでは、若者は学士号、修士号、博士号を取得しても、仕事がないため、社会制度に対する不満が募り、モチベーションが低下します。そのため、ウガンダの若者は日本の若者よりも積極的に社会に関与したいと考えています。
斉藤: ユース・アセンブリーでに学んだことは?
セニャンゲさん: 多くのことを学びましたが、特に政策立案者や外交官と出会った経験が大きかったです。彼らは世界中の政策やシステムを動かす人々です。帰国後、彼らを私のNGOとつなげ、インターンシップやボランティア活動を提供してもらうよう働きかけました。政治家や外交官は、これらの機会を通して若者が政策を発信したり、地域社会と協力して社会問題に取り組むことを可能にしてくれると確信していました。国連の働き方についても学びましたが、一番大きかったのはネットワークを活用して、若者に社会を変える機会を提供することでした。
斉藤: アポロさんのNGOはどのようなプロジェクトを実施しているのですか?
セニャンゲさん: 私たちのビジョンは、若者が中心となって世界に貢献することです。一人一人の若者が異なる情熱を持っていて、私のNGOは彼らがそれぞれの情熱を追求するための支援をしています。プロジェクトの一つに、「Keeping Her in School With A Reusable Sanitary Pad」(再利用可能な生理用ナプキンで女子学生を学校に通わせよう)があります。私達は女子の教育権を守るために戦っています。ウガンダでは「生理の貧困」が問題となっていて、500万人の女子学生がこの問題で学校を中退しているというデータがあります。このプロジェクトでは、2000枚の再利用可能な生理用ナプキンと1000個の抗菌石鹸を1000人の女子に配布することを目指しています。
斉藤: AFSユース・アセンブリーに参加した後、どのような気持ちですか?
セニャンゲさん: AFSユース・アセンブリーをサポートするのは素晴らしい経験でした。自分の夢を達成するためにもっとできることがあると気づきました。今、新しいプロジェクトに取り組んでおり、得たインスピレーションやネットワークを活用しています。未来に対してよりポジティブになりました。将来的には、このプロジェクトと組織を拡大したいと考えています。現在、大学のネットワークを構築することを目指しています。