JICUF学生トラベル資金受賞者、シルビア・ルズ・ゴンサレス・マルケスさんインタビュー
シルビア・ルズ・ゴンサレス・マルケスさんは「人間の安全保障:迫害を受けるメキシコのキリスト教系先住民族」という研究プロジェクトにつき、JICUFより学生トラベル資金を受賞しました。メキシコ出身の彼女は、現在平和・紛争解決学を学ぶ修士課程の学生ですが、今年8月、修士論文のフィールドワークを行うため、チアパス州及びメキシコシティを訪れました。修士課程修了後は、ICUの博士課程に進学する予定です。調査旅行についてゴンサレスさんをインタビューしました。
JICUF: ゴンサレスさんの研究プロジェクトについて教えてください。
ゴンサレスさん(以下Luz): このプロジェクトの目的は、宗教的不寛容の複雑な背景を理解し、それが大きな問題となっているメキシコ・チアパス州において平和を回復する方法を探ることです。
国の創立以来、メキシコで認められた唯一の信仰はカトリック教でした。時間の経過と共に、カトリック教は先住民族の文化や信仰と一体化しました。国家と宗教の分離が徐々に進んだものの、いまだに政府の政策はカトリック教徒を優遇する傾向があります。メキシコの先住民族のコミュニティでは、カトリックの慣習や規範がアイデンティティの一部になっています。カトリック教の影響力は強大で、先住民族がプロテスタントに改宗すると、カトリックの隣人に差別され、嫌がらせをされるのが実態です。
2013年にピュー研究所が、宗教的な理由で起きた世界中の紛争に関する研究結果を発表しました。これによると、宗教的理由で生じた紛争が中度から重度に悪化している国は、アメリカ大陸ではメキシコだけであることがわかります。宗教的不寛容は先住民族のコミュニティでは特に深刻で、複雑な文化的・政治的背景も絡み、死者を出す悲劇を引き起こしています。メキシコの中でも、チアパス州ほど宗教的不寛容が深刻化している場所はなく、宗教対立が原因で、1970年代以来4万5千人もが国内避難民(IDP)になっています。今回の調査旅行の目的は、実際にチアパスに出向いてデータを収集し、様々な立場の人が宗教的不寛容についてどのように考えているのかを分析することでした。特に犠牲者であるプロテスタント系先住民の視点に注目しました。
JICUF: 調査中、困難なことはありましたか?
Luz: 中立的な視点を保ち、辛い体験談を聞いても動揺せず、冷静でいることに苦労しました。また、できるだけ彼らを支援したいと思いつつ、今の自分には修士論文を書くことしかできないという現実を認めるのも辛かったです。それでも現地の方々は私をあたたかく受け入れ、私のために時間を割いてくれました。
JICUF: 調査旅行で学んだことは?驚いたこと、特に印象に残っていることはありますか?
Luz: この経験を通して、あらゆる立場の人々と特別な関係を築くことができました。中でも、宗教が原因で迫害を受けた人たちとの絆は特に大切です。決して裕福とは言えない生活のなかで、私を自宅に招き、心を開いて話をしてくれました。あまり物がないにもかかわらず、最上級のもてなしをしてくれました。まるで友人と話しているような、形式にとらわれないインタビューができ、限られた時間しかなかったことだけが残念でした。
JICUF: 学生トラベル資金は役立ちましたか?
Luz: トラベル資金のおかげで自由と中立性を保つことができました。調査対象の人々が置かれた難しい状況に対する自分の姿勢が、スポンサーに影響されることがないという自信と、公平性を持って人と接することができました。
JICUF: この調査旅行を通して、新たな視点を得ましたか?
Luz: この旅行は、研究者として、また宗教の自由を支持する修士課程の学生として、宗教問題の複雑さを知るきっかけになりました。信仰の問題、政府レベルでの決断の行われ方、許しの効果、権力と正当性を求める闘いなどについて学びました。人間の有り様、自分自身の有り様について考えさせられました。さらに、自分の内面と向き合い、責任を持って言葉を選ばなければならないと思いました。
調査結果はメキシコで宗教的迫害を受けた人々のエンパワーメントを手助けするための研究や、宗教の自由を訴える運動に役立てていきます。修士論文では、すでに困難な先住民族の生活状況を悪化させることなく、宗教の自由を守る行動や戦略について、政策提言をします。
JICUF: インタビューに応じてくださり、ありがとうございました。修士論文頑張ってください!