ICUの林の中で過ごした1年間
この11ヶ月間、家族と共にICUの林の中で生活してきましたが、6月半ばに米国ニュージャージー州の自宅に戻ることになりました。ICU及び周辺地域で大勢の心暖かい方々に出会い、素晴らしい1年を過ごすことができました。米国に戻った後、ICUでの暮らしを懐かしく思うことは間違いありません。私たちを歓迎してくださった皆様に心から感謝します。
1年間の滞在の目標は3つありました。一つは大学幹部、教職員、学生の皆様との関係を強化すること、もう一つはICUがどのように運営されているかをよりよく理解すること、そして最後はICUコミュニティの中でJICUFの知名度を上げることでした。それぞれの目標につき、一定の成果を上げることができました。1年間の体験をまとめるのは容易ではありませんが、ハイライトをいくつかご紹介します。
ICU生との交流
JICUFは3つの方法でICU生を支援しています。一つめは奨学金の給付、二つめは学生サポート資金の提供、そして三つめはグローバルリンク・プログラムの運営です。JICUFのオフィスはICUから離れているため、普段ICU生との交流はオンラインか、短い出張時に限定されます。しかしこの1年はキャンパスで頻繁にICU生と接することができました。オフィスアワーに面会したり、ゲストレクチャーを行ったり、助成金申請書の書き方ワークショップを開催したりしました。また、様々な授業を訪問してJICUFのプログラムについてプレゼンテーションを行ったり、学生サポート資金への申請や、就職、進学、留学について助言することもありました。何名かの学生を自宅に招待し、家族と食卓を囲むこともできました。
パンデミックが拡大してからは、学生と交流する機会も少なくなりましたが、Zoomで対話を続ける他、キャンパスに残る学生とは適度な距離を保ちつつ、散歩しながら会話することもありました。最近ではイスラム教徒の学生と自宅でイド・アル=フィトルを一緒に祝う幸運にも恵まれました。
教員との協力
JICUFはいくつかの方法でICUの教員と協働しています。教員プログラム助成金を通してICUの使命に沿った教員プログラムを支援する他、教員主導の体験学習プログラムを実施し、教員の協力を得て奨学金プログラムを運営しています。この1年は、教員の方々との協力関係を一層強化することができました。例えば李勝勲先生が主導するJICUF卒論発表会に参加したり、ジェレマイア・オルバーグ先生、ジョージアンドレア・シャーニー先生とRethinking Peaceに関する本の出版記念イベントを開催したり、シリア人学生奨学金プログラムの運営においては新垣修先生と綿密に連携してきました。また、山口富子先生、藤沼良典先生とは、キャンパスでの農業をいかに地域のコミュニティ開発に活かし、ICUのリベラルアーツカリキュラムに取り入れるかについて議論しました。
卒業生との出会い
ICUの卒業生と交流を深めることができたことも、この1年の大きな成果の一つです。首都圏に住む大勢の同窓生と接しただけでなく、海外に住む何名かの同窓生をキャンパスでホストすることもできました。例えば昨年11月には米国在住の堀江康之氏をキャンパスにお迎えしました。堀江氏にとって、1961年の卒業以来はじめてのICU訪問でした。また、昨年秋にはICU同窓会の会議と、1957年卒業の1期生の会合に出席する機会に恵まれました。今年1月には卒業生の新年会にも出席しました。
ICU幹部との関係強化
今年は日比谷潤子前学長が離任し、岩切正一郎学長が就任した節目の年でもありました。学長交代の時期をICUで過ごせたおかげで、岩切学長はじめ新たな役職者と良好な協力関係の土台を築くことができました。パンデミックの拡大を受けて、JICUFとICUの協力関係はさらに重要なものとなり、JICUFはICUを二つの方法で支援することを決定しました。一つはICUの1年分のZoomライセンス契約費用を負担することで、もう一つは新型コロナウィルス感染症対策により経済的な損失を被った学生を支援する「緊急特別給付金COVID-19」に10万ドルを提供することでした。米国に戻るまで、岩切学長及び二人の副学長と定期的な会談を続け、JICUFとICUの協力関係について討議していきます。
ICUキャンパスへの深い思い
ICUのキャンパスは、自然の宝庫です。東京という大都会の中で、ICUの自然は特異な世界を繰り広げています。アライグマや狸、蛇、ムカデ、蜘蛛、無数の虫に悩まされたこともありましたが、ICUの林の中での生活は素晴らしいものでした。
この1年の生活は、ヘンリー・デビット・ソローの「森の生活 ウォールデン」を読んで学んだことを思い起こさせてくれました。それはICUのリベラルアーツに深く通ずるものです。ソローの言葉で、この報告を締めくくりたいと思います。
「私は実験によって、少なくとも次のことを学んだ。もしひとが、みずからの夢の方向に自信をもって進み、頭に思い描いたとおりの人生を生きようとつとめるならば、ふだんは予想もしなかったほどの成功をおさめることができる、ということだ。そのひとは、あるものは捨ててかえりみなくなり、目に見えない境界線を乗り越えるようになるだろう。新しい、普遍的でより自由な法則が、自分のまわりと内部とにしっかりうち立てられるだろう。あるいは古い法則が拡大され、もっと自由な意味で自分にとって有利に解釈されるようになり、いわばより高次の存在から認可を得て生きることができるだろう。」
「私が森へ行ったのは、思慮深く生き、人生の本質的な事実のみに直面し、人生が教えてくれるものを自分が学び取れるかどうか確かめてみたかったからであり、死ぬときになって、自分が生きていなかったことを発見するようなはめにおちいりたくなかった。」(「森の生活 ウォールデン」岩波文庫版 飯田実訳)