JICUF助成金受賞者スポットライト:北海道での言語学研究プロジェクト
ICU教養学部4年生の鈴木成典(みちのり)さんは、北海道で言語学の研究を行うため、昨年秋にJICUF学生トラベル資金を申請し、65万1,800円を受賞しました。この資金を使って、鈴木さんは今年3月に他1名と、7月に他2名の学生と北海道で調査を実施しました。春には函館、小樽、旭川を訪れ、夏にはさらに北見と釧路も訪れました。日本語の2つの方言における声帯振動の研究について聞きました。
JICUF:鈴木さんの研究プロジェクトについて教えてください。北海道への調査旅行の目的は?
鈴木さん(以下MS):このプロジェクトは言語学の研究で、とりわけ音声学という言語音に関する研究の一環です。このプロジェクトでは音響的・調音的な手法を用いて北海道方言と関東方言という日本語の2つの方言の声帯振動の差を比べます。実験の録音はマイクと電気声門図(EGG )と呼ばれる声帯の振動を記録する機器を用いて行われます。北海道方言、とくに現地で生まれ育った方の声のデータ収集のために、北海道の5つの都市を訪れました。
まず初めに音声学のコースを履修した際、電気声門図を使って録音を行う機会があり、学生はみな「あば」と言い、それを録音してみました。すると、多くの学生の[b]の発音は声帯振動の少なさが[p]に似ており、北海道出身の学生のみ[b]らしい声帯振動が観察されました。これに基づき、[b]のような有声阻害音を発音する際、北海道方言話者の声帯は関東方言話者よりもより振動していると仮定しました。
この仮説の検証のために8名のICU生(北海道出身と関東出身が4名ずつ)をに協力してもらい実験を行ったところ方言差が確認されたため、これを第31回日本言語学会にて報告したところ、他の大学の先生から北海道出身でもICU生は2年以上東京にいるため関東方言の影響を受けている可能性をご指摘いただき、北海道で生まれ育ち、他の地域で暮らしたことのない人の発音を研究することとなりました。このプロジェクトの目的は、ICU生の実験で観察された北海道方言の特徴が本当に確認されるかどうかを確認し、また統計的手法によって方言差がどのようなものか明らかにすることです。
JICUF: 北海道での調査はうまく行きましたか?
MS:愛知学院大学で日本語の音声規則について研究されている高田三枝子先生に提案していただいた北海道の5つの都市で研究を行いました。函館に始まり、小樽、旭川、北見、釧路と移動していきました。北海道はとても広いこともあり、ある1日に録音実験を行い次の日に次の都市へ移動する、というスケジュールで実施しました。それにより、この研究は10日間のフィールドトリップとなりました。この結果、計20名の方の声を録音することができました。
また、北海道は東京に比べて本当に過ごしやすい天気でした。北海道で研究を始めた時には東京では記録的な猛暑となっており、もし東京にいたら暑すぎて溶けていたと思います。
JICUF:JICUFの資金はどのように役立てましたか?
MS:JICUFから頂いた基金によって実験参加者への謝礼や交通費、宿泊費、食費等を賄うことができました。また、リー・スンフン准教授の指導の下、研究プロジェクトをどのように準備するのか、特に研究チームの組織、実験の刺激語の準備、実験に参加して下さりそうな方々への連絡、そして分析や研究結果の発表の準備などを学ぶ良い機会となりました。このプロジェクトはJICUFの基金抜きでは実現しえないものでした。将来言語学者となることを志すにあたり、フィールドワーク及び大きな学びの機会を与えていただいたJICUFに今一度感謝の念を述べさせていただきたいと思います。
JICUF:鈴木さん、ありがとうございました。研究のご成功をお祈りしています!