JICUF助成金受賞者スポットライト:アレン・キム准教授が日本フィリピン学生サミットを実施
ICUのアレン・キム准教授(社会学)は、JICUFの助成金を受けて、3月7日から15日にかけてICUの教養学部生6名をフィリピンに引率し、日本フィリピン学生サミットを実施しました。以下はキム准教授のレポートを編集したものです。
JICUFの教員助成金及び学生サポート資金の秋期申請期間が8月27日に開始します。10月1日までに問い合わせフォームをご提出ください。
日本フィリピン学生サミット(Japan-Philippines Studnet Summit: JPSS)は学生のリーダーシップと文化的意識を培い、日比両国の協力関係と友情を促進するためのパイロットプログラムで、JICUFの資金援助により実現しました。日本とフィリピンは、植民地支配を含む歴史の深い傷跡があるにもかかわらず、強固な関係を築いてきました。今日、両国は国際援助、開発プロジェクト、防衛協力、活気に満ちた移民コミュニティなどを通して繋がっています。両国は、知的にも文化的にも興味深い対照をなしています。2016年のジェンダー不平等指数(GII)では、格差が少ない順のランキングで、フィリピンは世界第7位だったのに対し、日本は111位でした。女性の経済活動・社会参加は、両国の大きな違いの一つです。日本は集団思考で家父長制であるのに対し、フィリピンは家族中心で女家長制であると言われています。
JPSSは、フィリピンについて直接学び、新たな友情を築くと共に、両国間のみならず東南アジアにおける文化的センシティビティと相互協力を促進する第一歩となるプログラムです。参加した学生は、批判的な比較研究をおこない、将来重要となるリーダーシップスキルを身に着ける機会を得ました。
JICUFの助成金は、交通費、宿泊費、歴史ツアー、食費などに当てられました。プログラムに参加したのは、6名のICU教養学部生、1名のフィリピン人元OYR(1年本科生)と、社会学のアレン・キム准教授で、3月7日から15日にフィリピンを訪れました。JPSS参加者はICUで事前学習会に出席し、フィリピン人教員から先住民の問題や多様性についてのレクチャーを受けました。フィリピン到着後は、アテネオ・デ・マニラ大学やフィリピン大学のディリマン校・バギオ校で講義や円卓会議に参加しました。さらにフィリピナス・ヘリテージ図書館、アヤラ博物館、アテネオ大学のリザル図書館、フィリピン大学バギオ校のコルディレラ博物館、日系人が多く住むバギオ市、第二次世界大戦の戦地コレヒドール島などを訪れ、フィリピンの歴史、文化、現代の問題について学びました。
参加した学生が以下に述べているように、JPSSはフィリピン文化や世界情勢に対する認識を深め、両国の絆を築く基礎になりました。また、ICUの教育がもたらした影響も、一部のコメントに色濃く現れています。
松木マリ亜(教養学部1年)
プログラム2日目、アテネオ・デ・マニラ大学の学生がスラム街に連れて行ってくれました。汚い床の上で子供達がメンコで遊んでいる様子や、蝿が舞う中、魚を売る家や、ゴミで汚れた川などを見ました。
そこで3人の子を持つお母さんにインタビューする機会を得ました。この女性は、息子たちが学校でいじめられることを恐れていることや、学校を卒業させることが最優先の課題であることを語ってくれました。物質的には豊かではありませんでしたが、家族がいて幸せそうでした。私自身は自分の生活に感謝していますが、子供の教育のためにあらゆることを常に犠牲にしなければならない人たちがいることを考えたことがありませんでした。教育は特権であり、この体験を通して、自分が受けた恩恵を還元すること、感謝の意を表することの重要性を悟りました。
日比関係について議論する中で、オープンな心を持つことについても学びました。アテネオ・デ・マニラ大学では、第二次世界大戦と慰安婦の問題について話し合いました。日本では、このような論争を招く問題については議論しにくいのですが、フィリピン人の学生や先生方は意見を述べました。日本軍の兵士に強姦された女性、マリア・ローザ・ルーナさんの日記を読む機会もありました。日本の教科書で検閲された写真も見ました。こうした問題について話し合うことを恥ずかしく思うのではなく、自分の心を開いて人の意見を聞くことが大切であると知りました。
JPSSは、国際開発援助に関わる世界銀行のような組織で働くことに関心を持つきっかけにもなりました。どの国の政府も貧困対策や教育などに優先的に取り組んでいるはずと考えていましたが、フィリピン政府と国民の関係は緊迫していることを知りました。この状況下では、国際開発機関はインフラよりも貧困対策や、低価格の住居や質の高い教育の提供に尽力すべきだと思います。フィリピンの貧困率は高く、若者がしっかりと教育を受けなければ、経済発展は望めません。
JPSSは私にとって新たな発見の連続でした。フィリピンで出会った学生とは今も連絡を取り合っています。フィリピンの歴史や第二次世界大戦、ジェンダーの役割、貧困問題、フィリピン人の出稼ぎ労働者などについて学んだことも有意義でした。学校や大学を訪れ、現地の学生の生活も体験しました。グローバルな視点から、学生である私たちにも地域社会やより広い世界のためにできることがあることを知る良いきっかけになりました。ICU生に強くおすすめします。
星野 萌恵(教養学部4年、アテネオ・デ・マニラ大学交換留学経験者)
このプログラムを通して、バギオにおける先住民の文化と日比関係について学びました。昨年アテネオ・デ・マニラ大学に交換留学した時、都市部の貧困と教育について研究したので、これらのテーマは特に興味深いものでした。
特に関心を持っていたのは先住民の文化です。フィリピン大学バギオ校のコルディレラ博物館を訪れ、専門家の話を聞くことによって、さらに知識を得ることができました。例えば、スペイン人の到来まで、フィリピンには階級社会がなかったことを知りました。それまでは資本主義社会と異なり、社会の公平性を保つためのメカニズムが存在し、餓死者が出ないような仕組みになっていたのです。富裕層は搾取者ではなく、資源を管理するコミュニティのリーダーという位置付けでした。
日比関係は、私にとってはまったくの新しい分野でした。明治時代にはフィリピンに新天地を求める日本人がいたことを知り、驚きました。現在の日本経済の地位からは想像しにくいことです。
JPSSは、フィリピンに住んだことがないが、ICUの交換留学制度を通して留学してみたいと考える学生にとって、素晴らしい集中入門プログラムであったと思います。
高橋美季(教養学部2年)
JPSSは、フィリピンに対する理解を深める機会を与えてくれました。フィリピンに滞在した7日間に、世界に存在する不平等が目に入っていなかったことに気づきました。また、異なる文化的背景を持つ人々と関わることを通して多くを学びました。フィリピンでの数多くの体験のうち、もっとも印象的だったのは以下の4つです。
第一に、博物館への訪問を通して、フィリピンにおける慰安婦問題について学んだことです。日本では、韓国以外でも慰安婦の問題が存在することはあまり教えられていません。私は日本軍がフィリピン人女性を慰安婦にしていたことを知りませんでした。この訪問を通して、目が開かれると共に、異なる視点を持つ重要性を知りました。
第二に、現地の人との交流です。フィリピンの人々はとても暖かく、常に私たちを歓迎し、サポートしてくれました。彼らは見知らぬ人にも親切で、人を外見で判断したりしませんでした。日本人は見かけで人を判断し、自分と違う外見や行動をする人を排除する傾向があると思います。
この体験を通して、日本人が他国の学生と比べて社交的でないのは教育のせいではないかと考えるようになりました。フィリピンの大学では、学生には自由に自分の行動を決めることができます。一方日本では、教師が学生を統一し、社会に出る準備をさせるために、厳しい規則をたくさん設定します。このような制度の下では、学生は自分のやりたいことを見つけにくく、本当に興味のある活動に参加しにくいと思います。
第三に、スラム街で、あるお母さんを訪問したことです。この女性は、私たちが話すとき、怖い顔をしていると指摘しました。笑顔でなかったのです。日本では、相手が話しているとき、笑わないように教えられます。真面目に話を聞いていない印象を与えるからです。しかしフィリピンでは、笑わないことは良いことではありません。旅行中、人に対して微笑むことは大切だと学びました。それによって、人が受ける印象が変わるからです。スラム街での自分や仲間たちの悲惨な体験について話す時も、この女性は笑みを絶やしませんでした。前向きな心を失わずに、多くの障害を乗り越える力のある方だとわかりました。
最後に、ストリートチルドレンとの出会いがとても印象的でした。日本では、あまりストリートチルドレンは見かけません。この年齢の子供達が本来与えられるべき機会について考えさせられました。学生は両親からの力強いサポートを得るべきです。スラムで出会ったお母さんは、教育の重要性を繰り返し強調しました。彼女の教育への熱意のおかげで、子供達は学校に通い続けているのです。両親のサポートがあれば、子供は学校に通い続けられます。子供と親の双方に教育の価値を教える組織を作ることは、この問題の一つの解決策になるかもしれません。
JPSSは異なる文化について学ぶだけでなく、自分がこれまで知らなかった社会問題を見つめる良い機会になりました。日本にいたら得られなかった無数の体験ができたおかげで、プログラムを満喫しました。フィリピンの文化と歴史に対する理解を深めるだけでなく、人々の暖かさに触れるため、また必ずフィリピンを訪れたいと思います。
アンジェラ・ルイーズ・ロサリオ(元1年本科生、2016-17年)
JPSSは、フィリピンの社会、文化、歴史を学生に体験させてくれる数少ないプログラムの一つです。自分が現在通うアテネオ・デ・マニラ大学と、母校であるフィリピン大学バギオ校にICUの学生を迎えることができて光栄でした。どちらの大学の関係者も、JPSSをホストし、旅程の計画に貢献できたことを嬉しく思っていました。
JPSSの参加者は、初めて会った時は内気で不安そうで、大人しかったのですが、好奇心旺盛だと感じました。プログラムが進行するにつれ、彼らは徐々に変わっていきました。段々自信を持って自分の意見を述べるようになり、積極的になったのです!どこに出かけても、ホストしてくださった方々や出会った方々、そして私に対してもフィリピンの文化、歴史、そしてとりわけ社会問題について質問するようになりました。
JPSSは、参加した学生ばかりでなく、彼らを受け入れた大学やサポートした人々にとっても有意義なプログラムでした。相互協力・理解を通して、JPSS参加者とフィリピン人学生の間に友情が生まれ、ICUとパートナー大学の関係も強化されました。フィリピン人の元OYRとして、JPSSの学生と行動を共にし、彼らに母国を紹介することができ、とても嬉しく思いました。