JICUF助成金受賞者スポットライト:吉川菜穂さん ケニア農村部におけるソーシャル・エモーショナル・ラーニング(対人関係能力育成)
この春、教育学・国際関係論を専攻する教養学部3年生の吉川菜穂さんが316,523円のJICUF学生トラベル資金を受賞しました。現在ベルギーのUniversité Libre de Bruxellesに留学中の吉川さんは、7月にケニアのロイトクトク村を訪れ、心理学的・教育学的観察法を用いて地元の小学生の自己概念と学習環境の関係について調査しました。この調査のきっかけとなったのは、2018年にサービスラーニングプログラムで一ヶ月同村を訪れた際、周辺化されたコミュニティにおける教育システムに興味を持ったことでした。JICUFからの資金は、航空券、ケニア国内の交通費及び宿泊費に当てられました。
吉川さんは2018年にケニアに滞在した際、公立校の教育環境や教育方法が効果的でないことに気づきました。教育環境が生徒に与える影響を研究するために、教室での社会的サポートの度合いが生徒の対人関係能力や学習能力にどう影響するかに焦点を当てることにしました。このロイトクトク村を4週間訪れ、私立校と公立校それぞれ1校ずつ(セントルークス小学校、 DEB小学校)で、5年生の教室を観察しました。教室では、教師・生徒間関係、生徒間関係、そして全体的な教室環境に注目しました。さらに、教師・生徒の双方と面接を行い、ソーシャル・エモーショナル・コンペテンス・クエスチョネア(SECQ)を使ってそれぞれの対人関係能力を評価しました。
その結果、良い成績をとることの重要性と、一定の学習基準を満たす必要性が、生徒間及び教師間の競争を生み出していることがわかりました。生徒の間ではより良い成績をとるため、教師の間ではクラス全体がより高い成績をとるための競争が生まれたのです。たとえば、教師は優秀な生徒に注意を払い、クラス全体の成績を引き上げる努力をする傾向が見られました。またそれにより、優秀な生徒は先生に助けを求めやすいと感じるようになり、それが自己概念を向上させるという傾向がありました。教師からの注目、教育的支援、自尊心のすべてが生徒のSECQの結果に影響しているようでした。
吉川さんがもう一つ気づいたことは、生徒間の関係でした。消しゴムや鉛筆などの品物を持っているかどうかが、他の生徒からの評価を左右し、それが自尊心や対人関係に影響していることがわかりました。たとえば消しゴムを持っている生徒は、他の生徒に貸してほしいと頼まれることが多く、このように他の生徒から注目を浴びることが自尊心を高めることがわかりました。
調査の障壁となったのは、言葉の壁と研究期間の短さでした。スワヒリ語やマサイ語を母語とする人と英語で話すのは難しく、一部の生徒とは時間をかけて信頼関係を築くことができなかったそうです。今回の調査は、将来ケニアやアフリカ諸国全般の教育制度に関する長期的研究の第一歩になると考えているそうです。
最後に、吉川さんはこのプロジェクトが将来のキャリアについて考えるきっかけになったといいます。将来はアフリカにおける教育の政治的側面や、地政学が生徒や学校にどう影響するかについて研究を続けたいそうです。学術的な好奇心が高まり、9月からのベルギー留学では、歴史、政治、国際関係やフランス語を学び、アフリカでの研究の機会を広げたいと考えているそうです。