JICUF助成金受賞者スポットライト:”I am ME” ワークショップ
数回のオンラインワークショップからなる「I Am ME」が、一月下旬から二週間にかけて開催されました。一連のワークショップの目的は、ICU高校の生徒にサードカルチャーキッズ(以下TCK)としての経験を自由に表現する場を提供することでした。企画したのはICUの卒業生であるヒロコ・ベルさん他数名の協力者です。ベルさんは2021年秋、プロジェクトの資金としてJICUFから198,400円の助成金を受け取りました。
ベルさんは初回のセッションで、歌や講義を通してTCKのコンセプトを生徒たちに教えました。ベルさんはこの取り組みについて、「『TCK』という言葉の意味を学ぶことは、自分の代名詞を知ることと同じぐらい大切なことです。世界中にたくさんのTCKがいることを知り、生徒たちは遠くにいても自分と同じ経験や価値観を持った大きなコミュニティと繋がることが出来るのです。」と語っています。二回目のセッションからは、作詞や作曲、歌や演劇、映画作成などを通して、生徒らがTCKとしての経験を伝える創作プロジェクトに取り組みました。生徒たちは「作詞の手法」と「デジタル・ストーリーテリング」の二つの講義を受け、それぞれのプロジェクトについてフィードバックを受けました。ワークショップ最終日、生徒たちはプロジェクトを発表しました。
ワークショップには合計12名の生徒が参加しました。プロジェクトの狙いは、TCKに共通する強みや困難について生徒たちに伝え、同じ経験をしている人が他にもたくさんいることを知ってもらい、彼らに安心感を与えることでした。ヒロコ・ベルさんにお話を伺いました。
ヒロコ・ベルさん(以下敬称略):パンデミックの間に読んだ本(Third Culture Kids: Growing Up Among Worlds)がきっかけでした。自分自身が帰国子女であるにもかかわらず、TCKと言う言葉を知らなかったので、読んだ時は目から鱗が落ちました。これはまさに私の経験であり、日本だけではなく、色々な国の間を移動したすべての人に当てはまる考え方を学問としてまとめた本で、感動しました。
そこから、たまたま歌を作るチャンスをいただいて、TCKに対して応援歌を作ろうと思って「I am ME」という曲を作りました。それをICU高校の先生に送ったら、ICU高校では今TCKという言葉をほぼ使っておらず、「帰国子女」など割とトラディショナルな用語で「帰国生」を表現していることを知りました。私がTCKという言葉にもっと早く出会えていたら、自分の中で 「人と違う」というモヤモヤ感が払拭できたと思ったので、高校生にぜひ紹介したいと思いました。「I am ME」 を一緒に作った仲間には、ハーフとして育った人も、TCKの母親である人もいて、皆で「私はなんなの?」という迷いについて歌っています。この迷いを表現することによって癒される感覚があるから、この問題についてワークショップを開けたらいいねというところから始まりました。
ワークショップの目的の一つは、ICU高校の生徒、先生、保護者の間でTCKという言葉の認知度を高めることでした。TCKの強みとしては、グローバル性、人間関係の観察力、言語力などがありますが、マイナス面としては、自覚していなくても喪失感を抱えていることが多いことが挙げられます。親の事情で慣れた環境から引き離され、別の場所へ移動させられた時に失ったものを憂う間もなく、バタバタと次の生活に慣れる準備をする中で、そうした負の気持ちを抱く人もいるのです。彼らがをサポートを必要としているときに、TCKという言葉を知っていれば、もっと適切な支援を得ることができるでしょう。ワークショップの狙いの一つは、アイデンティティ形成をサポートすることだったのです。
JICUF: 現代のTCKの経験は、昔のTCKと比べて違うところはありますか?逆に変わらない面はありますか?
ベル:変わらないのは、一つの文化から別の文化に移行する経験と、その影響です。David C. Pollock というアメリカの研究者による初期の研究は、宣教師や軍人の家族に焦点を当てたものでした。今と昔のTCKの最大の違いは、特定の職業の家族に限定されていないという点です。今は経済がグローバル化して、あらゆる職業の家族が移動するようになりました。
TCKにとって、時代と共に大きく変わったことがもう一つあります。私は中学の時にアメリカから日本に帰国しましたが、当時アメリカの友達とは手紙でしかやりとりができませんでした。大学生になってはじめてメールができるようになりました。今ではSNSも使えて、世界中にいる友達と繋がるのが楽になりました。遠距離電話も昔は高かったけれど、今はいつでも無料でビデオ・コールができます。それが大きな違いですね。
JICUF: ワークショップではどのような活動を行いましたか?
ベル:レクチャーでは、ジンジャーブレッドマンの絵を使って、身近に感じているものとあまりつながりを感じないものを書くことによって、生徒達に「ME」という概念について考えさせました。このような表現をしたことがある生徒は少なかったので、最初は少し苦労をした生徒もいました。
ワークショップの前には様々な質問をして、生徒たちが興味を持っていることを知ってから曲を作る作業を始めました。アートはレポートを書くよりも、もっと深いところから何かを引き出せる気がします。