JICUF客員研究員ルトガー・キューンハルト博士インタビュー
ボン大学ヨーロッパ統合研究センター(ZEI)のルトガー・キューンハルト教授は、去る5月にJICUF客員研究員として来日されました。客員研究員プログラムは、海外の著名な研究者を招聘する際の支援をICUから要請され、2002年に開始されました。客員研究員は、短期間(数日間から2週間)日本に滞在します。
ICUの教員がホストとなって招聘する客員研究員は、キャンパス内の東ケ崎潔ダイアログハウスに滞在します。客員研究員は、講義をおこなったり、教室でのディスカッションに参加する他、学生・教員・職員と非公式にも交流を深めるなど、ICUのコミュニティと積極的に関わります。交通費、宿泊費、謝礼金は、ICUとJICUFが共同で負担します。
JICUF: 当財団のウェブサイトのために、インタビューに応じてくださり、ありがとうございます。まずは、先生のバックグラウンドについて簡単に教えていただけますか。
ルトガー・キューンハルト博士(以下LK): 私はウェストファリア条約で知られるミュンスターで生まれ、カトリック教徒として育ちました。父が医師だったこともあり、両親には社会的責任について教えられ、若い頃から発展途上国と関わるようになりました。最初はジャーナリストとして、アフリカやアジアで活動しました。その後、複雑な世界についてより理解を深めたいという思いで研究者を志し、難民問題や人権の普遍性について学びました。かねてから、明治期以降の日本の軌跡は、世界の他の地域にとって重要な教訓に満ちていると考えていましたので、日本の大学院で研究を続けたいと思ったのです。
JICUF: ICUの客員研究員プログラムについては、どのようにお知りになりましたか?
LK: 客員研究員としてお招きいただいたときは、大変嬉しく思いました。良き同僚であり、文明間のグローバルな対話に関する重要な学術プロジェクトのパートナーでもあったジェレマイア・オルバーグ教授には声をかけていただき、深く感謝しています。オルバーグ教授は、卓越した研究者であるばかりでなく、お人柄も素晴らしく、先生を教員として迎えることができたICUは幸運だと思います。
JICUF: ICUでは主にどのような学術活動に取り組まれましたか。キャンパスにご滞在中、他の活動も楽しまれましたか。
LK: ICUのキャンパスを訪れたのは今年の5月で、一週間ほどの滞在でした。ICUでは何回か講義をおこない、学生や教員、ICUの指導者と有意義な対話をし、大変忙しく過ごしました。そのため、今回は他のことを楽しむ時間はありませんでした。
JICUF: ICUで特に印象に残った授業や先生方との出会いはありましたか?
LK: 植田隆子教授とヴィルヘルム・フォッセ教授はそれぞれ素晴らしい研究者で、今回の滞在中、お二人から多くを学びました。私がICUにほんの少しでも貢献できたとしたら、それ以上にお二人の豊かなご見識から得るものがありました。
JICUF: 先生は学究生活を始められた頃、ICUで学ばれたことがおありですね。そのときのご経験と比較して、今回の客員研究員としてのご訪問はいかがでしたか。
LK: ICUでは、1984年から85年にかけて日本語クラスを受講しましたが、今回キャンパスを訪れると、すぐにくつろいだ気持ちになりました。 私の語学力はたいしたことはありませんでしたが、何時間もかけて、平仮名、片仮名、そしてかなりの数の漢字を覚えたことを鮮やかに思い出します。また、ICUの図書館で日本の哲学書や関連図書を読みましたが、30年以上前にICUで触れた西田幾多郎やミルチャ・エリアーデの書は、今でも鮮明に覚えています。当時ロータリー・アドバイザーでいらした岡田まさこさんのご指導と暖かいご支援がなければ、ICUでの生活はあれほど充実したものにはならなかったでしょう。今回、ICUで岡田さんと再会する幸運に恵まれました。
JICUF: 差し迫った社会的あるいは経済的問題について、日本がドイツの経験から学べること、また逆にドイツが日本から学べることはありますか?
LK: すべての先進工業諸国が、「グローバリティ」の基本的な意味を理解する必要があると思います。豊かな国も貧しい国も、大国も小国も、すべての国が行動主体になりうるのです。また、すべての国が「発展途上」であるともいえます。「発展」とは何を指し、人間の尊厳と幸福にとってどのような意味を持つのかについて、新たなグローバルな解釈が必要です。そこで日独両国は、できるだけ多くの南半球の国々と、グローバリティの時代における人生の意味について意見交換をすべきです。これこそが、現代のもっとも重要な問題だと思います。最近国連で採択された「持続可能な開発目標」は、プライオリティがはっきりしない上、目指すものが相反する場合や、利害が対立する場合、どのようにこれらの崇高な目標を達成するのかについては説明されていません。
JICUF: 現在、EUにとって最大の課題は何でしょうか。現在進行中の難民危機は、特にドイツにとって大きな問題だと思いますが。
LK: EUは、統治体制を確固たるものにすると同時に、あらゆる分野でグローバル・パワーとして機能する準備をしなければなりません。すでに存在する経済的基盤を、文化・社会・戦略面にも発展させなければなりません。その一貫として、世界各地で平和を維持・回復するための断固たるグローバルな行動や、移民を合法的に受け入れて、現在の難民問題に対処することが必要です。これらはグローバルな課題であり、世界中の国が取り組まねばならないものです。
JICUF:ドイツと日本の教育制度の共通点、相違点は?
LK: 過去の固定観念はもはや通用しません。グローバルな時代には、どちらも学習する社会でなければなりません。この新しい方向に進むため、もっと互いに協力することが必要です。
JICUF: まさにICUと「明日の大学」が目指すものですね!学問や将来のキャリアについて、ICUの学生へのアドバイスはありますか?
LK: 大きな夢と視野を持ち、両足をしっかりと地につけ、謙虚であってください。よりよい世界を目指しつつ、自分の能力の限界を知ることも必要です。今後の人生がどんな方向に導かれようとも、与えられた責任を受け入れてください。決して諦めたり、シニカルになってはいけません。人生は恵みに満ちており、少なくとも微笑んでお返しするよう心がけるべきなのです。
JICUF: ありがとうございました!
LK: どういたしまして。このような機会を与えてくださったICUとJICUFに感謝します。