Study Abroad奨学生・古川英明さんインタビュー
JICUFは過去数年間、海外の大学で1年間学ぶICUの学生にStudy Abroad奨学金を授与してきました。今年はカリフォルニア大学バークレー校、ロサンゼルス校、デービス校、ミドルベリー大学、ギルフォード大学に留学中の5名の学生が受賞しました。
この5名のうち、今週はカリフォルニア大学バークレー校に留学中の古川英明(ふるかわ・ひであき)さんをインタビューしました。
JICUF:簡単な自己紹介をお願いします。
HF:私は東京生まれで、10年ほど住んでおりましたが、小学校5年生の時に父親の仕事の都合でスイスのチューリッヒに引っ越しました。5年後の高校1年生の夏に日本に帰国し、国際基督教大学高等学校に入学し、リベラルアーツと英語教育に惹かれてICUに進学することを決めました。ICUへの入学当初は経済学を主専攻にすることを検討していましたが、次第に日本や海外の人種やエスニシティに関連する問題を扱いたいと思うようになり、最終的には社会学を主専攻に、経済学を副専攻にしました。
JICUF:バークレーに留学されてすでに7か月が過ぎようとしています。留学生活は想像していた通りですか?驚いたことはありますか?
HF:留学を始める前からアメリカの大学は全般的に課題が非常に多く、授業の内容も高度であると聞かされていたので学期中の忙しさに対してはある程度の心構えはできていたつもりでしが、やはり留学初期はそのような学業環境の変化に慣れるのに苦労しました。その一方で留学にはICUと非常に似通っている点もあり、それらのお陰で比較的にスムーズに新しい学業環境に馴染むことができたとも思っております。例えば身近なものではタブレット椅子に始まり、授業中の積極的な参加や周りの学生とのディスカッション、オフィスアワー制度、コース番台制度、メジャー制度など様々な点で共通したものがあることには驚きました。
また、アメリカならではの誰とでも気さくに会話をするようなコミュニケーションの文化には早々に驚きました。東京やかつて住んでいたスイスでは見ず知らずの人々と話たりすることはまずなく、積極的に相手のことを聞いたり自らのことを話すことを求められる文化には留学開始当初はかなり戸惑いました。
そして、バークレーで学ぶことをもともと考えていた人種やエスニシティに関しても、アメリカにおけるその問題の深刻さには驚かされました。バークレーはもともとリベラルかつ学生や教職員の多様性も高いので、幸運なことに学内やキャンパス周辺では私自身がそこまで極端な差別などを感じたり経験することはありませんでした。しかし、もともとアメリカに住んでいる周りの学生たちから、地元や他の場所で差別的な行為や言動を受けたり、非白人同士でのいざこざといった事柄が今でもあることを聞いて学ぶことができました。また、授業を通して学術的な観点からアメリカにおける過去から現在に至る人種やエスニシティに関する差別や貧困などの様々な問題についてうかがい知る事ができ、留学するまではあまり知らなかったその実態には驚かされました。
また、日本からの食べ物といった物資の調達や情報の送受の手軽さについてもかつてのスイス在住経験を踏まえた上で非常に驚きました。サンフランシスコに近い土地柄とは言え、キャンパスの真横に日本とほとんど同じ品揃えのダイソーがあったり、普通のスーパーでも日本のお菓子や飲み物を取り揃えていたり、さらには日本料理店もあちこちにあることを留学開始早々に知った時は衝撃を受けました。さらにはここ数年の情報通信技術の急速な発展によって、日本や他の国と地域にいる家族やICU生と瞬時に話したり動向を知れるようになっていたことの素晴らしさを改めて実感することができました。
JICUF:留学して良かったと思うことは何ですか?
HF:留学して良かったと思うこととしては、やはり関心のある分野についてより深い学びをできたことにあります。留学先は研究を主軸とした総合大学で、社会科学についても多数の教員やリソースがあり、私が専攻する社会学やエスニック研究についても授業だけでなく講演会などのイベントも頻繁に開催されたり、図書館といった施設面でも非常に充実しているので存分に勉強をすることができました。さらに、人種的なマイノリティの立場に一時的にも置かれながらアメリカや世界における日本人を含めたアジア系に対する差別やステレオタイプなどの歴史や社会問題について学ぶことができたおかげで、今度は私がマジョリティとなってしまう日本において異なる人種やエスニシティの人々と彼らを取り巻く問題や困難について新たな観点から見ることができるようになったのではないかとも考えています。
また、もうひとつ留学を通して得られた大きなこととしては、前述したように新たに出会った人達と積極的なコミュニケーションができるようになったことです。留学開始直後は周りの学生のコミュニケーションの積極さに圧倒されていましたが、次第にみんながどのようにコミュニケーションを取っていくのかを観察したり実際に試していくことでそのような文化にも慣れていき、今では買い物に行った時に見知らぬ店員さんと雑談をすることを楽しめるほどにもなりました。寮やキャンパスにおいても、他の学生の専攻分野やバックグラウンドについて聞けるようになったことで、一人ひとりのことをより深く理解できるようになったのかとも思っています。
そして、そのような積極的なコミュニケーションを用い、寮や教室などで多様なバックグラウンドを持つ学生や人々と仲良くなれたことも非常に良かったと思っています。留学先ではインターナショナル・ハウスという寮に滞在していたのですが、そこにはアメリカも含めた世界各国からの学部生、留学生、大学院生、客員研究員など様々な人々が住んでおり、文化や専門分野が全く異なる多くの人々とお話しして仲良くなることができました。また、授業においては他の学生達に話しかけたりグループワークなどを通して仲良くなり、社会学やエスニック研究を専門とするアメリカで育った学生の考えや価値観など様々なものをうかがい知ることができました。このように留学を通してアメリカのみならず、世界中の人々と仲良くなることができ、多様な文化や価値観を知り得たことはとても嬉しかったです。
JICUF:どんな授業を取っていますか?クラブ活動には参加していますか?
HF:バークレーでは私のICUでの専攻である社会学と、関心のある人種やエスニシティに関する歴史や社会問題について学際的に取り扱うエスニック研究という二つの分野の授業を主に取っています。バークレーは二学期制なので前半の秋学期では卒業論文の際に用いるつもりの社会学のインタビュー調査法についてや、最近のアジア系アメリカ人についての諸問題に関する入門の授業を取りました。今の春学期には社会学の「アメリカにおける人種とエスニシティの関係」と「社会の不平等」を、エスニック研究では「アジア系アメリカ人の歴史入門」と「エスニック研究の理論と概念」といった授業を取っています。また、どれもアメリカにおける事柄を主に扱っており、内容は私が今まで知らなかったことばかりなので必死で学びつつ日本からの留学生として他の学生とは異なる視点からの意見や考えを授業でも発信していくことで私と周りの学生双方の理解を深めようとしています。
また、学業以外ではバークレー校の学生会であるASUC(Associated Students of University of California)にてインターンという形で携わっています。長年学生会が不在のICUに新たに学生会を立ち上げようと日本にいた時から試みていたので、歴史があり巨大なバークレー校においてどのように学生と大学が対話しているのかを実体験で学ぶことも目的として様々な活動のお手伝いをしてきました。
JICUF:将来の夢は?ご卒業後の進路について教えてください。
HF:国際化が進み国境を超えた人々の移動がますます進んでいくこの時代では、日本においても人種やエスニシティの問題がますます増加していくものと考えています。そこで、将来はICUや留学先で学んだことをより活かしていくためにこのまま大学院への進学をすることを検討しています。ICUや留学先で勉強した社会学や、留学先で学んだアメリカにおいての人種やエスニシティについて取り扱うエスニック研究の理論や概念を大学院でより深く学び、それらを日本での事情に当てはめていくことで日本における人種やエスニシティの多様化に伴う諸問題を解決策を見出ししていきたいです。最終的には、人種やエスニシティに関して学際的な観点から研究するエスニック研究を日本でも一つの分野として立ち上げ、日本においての人種やエスニシティに関する事柄についての人々の理解を深めさせていけるようにしたいです。
JICUF:古川さん、ありがとうございました。バークレーでの残り数ヶ月を満喫されますように!