ICUチームがジュネーブでネルソンマンデラ人権法模擬裁判大会に出場
7月17日から21日にかけて、松田浩道助教(法学メジャー)率いるICUの学部生チームが、ネルソン・マンデラ人権法模擬裁判大会に出場するためジュネーブを訪れました。今回の大会に参加したのは、山﨑千鶴さん(教養学部4年)、中来田桃さん(同2年)、鳴島歳紀さん(同3年)、薄久保崚さん(同2年)の4名でした。松田先生は昨年、学生が一連の模擬裁判大会に出場するための資金としてJICUFより681,000円の助成金を受賞され、ICUチームは今年3月には第12回宇宙法模擬裁判大会、7月上旬にはジャパンカップに出場し、ジュネーブでの大会は最後の大舞台でした。
ジュネーブの国連本部で開催された同大会は、プレトリア大学の人権センターが国連難民高等弁務官事務所の支援を受けて主催しました。法学を学ぶ学部生及び修士課程の大学院生が世界中から参加し、各地域よりもっとも優秀なチームがジュネーブの準決勝及び決勝ラウンドに招かれました。裁判官役を務める国際法の専門家を前に、学生たちは架空の人権侵害事件について弁論をおこないました。ICUチームがジュネーブでの大会に参加するためには、まずアジア太平洋地域の予選を通過する必要がありました。
予選では、9月に修士課程2年目に入るロータリー平和フェローのジョゼフ・スミスさんと中来田さんが中心となって書面作成をおこないました。13の大学のチームがアジア太平洋地域の予選を突破しましたが、日本から選ばれたのは東京大学とICUのチームだけでした。ジュネーブでは山﨑さんと中来田さんの2名が弁論をおこない、鳴島さんと薄久保さんはオブザーバーとして参加しました。全員がリサーチと準備に貢献しました。
以下は松田先生からの報告です。
「ICUチームは非常に競争の激しい地区予選を勝ち抜き、アジア代表としてジュネーブ国連本部における世界大会に進出しました。全アジアの伝統ある法学部やロースクールを破って勝ち進んだことは、『リベラルアーツのなかの法学教育』を目指すICU法学の成果を実証する快挙といえます。
ICUチームは、裁判官役を務める国連の人権専門家の前で国内救済完了の原則や、領域内で生じた私人間差別に対する国家の保護責任といった高度な法的議論を展開し、非常に高い評価を得ました。特に、事前に準備した内容だけでなく、国連図書館を使いこなして弁論直前まで徹底的に行ったリサーチを活かし、その場で相手方の議論に即座に対応させた議論を展開した点や、国連公用語であるフランス語を上手に混ぜつつ弁論を行った多言語・複言語(multilingualism, plurilingualism)への積極姿勢は、世界中から集まった参加校や国連の専門家の間で大きな注目を集めました。
大会参加に合わせ、ジュネーブ日本政府代表部では伊原純一大使・長岡寛介公使・久保田友子一等書記官、自由権規約委員会では委員長の岩沢雄司先生、アメリカの委員であるSarah Cleveland 先生、国際法委員会では村瀬信也先生、女性差別撤廃委員会では林陽子先生といった世界の最前線で活躍されている方々との面会が実現しました。Palais des Nations で開催されていた重要な国際会議を数多く傍聴できたことも、非常に貴重な経験となりました。特に、国際法委員会ではICU卒業生でもある村瀬信也委員の取り計らいにより、議長から”The Commission welcomes the students from International Christian University”と特別の挨拶がなされ、世界の注目を集めました。国連図書館ツアーでは、新渡戸稲造の貴重史料を特別に見せてもらうこともでき、法学雑誌や貴重史料を熱心に調べるICU生の姿は国連図書館のFacebook pageでも紹介されました。
弁論者の一人である中来田桃さんがOECD Student Ambassador Programmeに合格したことがきっかけとなり、本学特別招聘教授である吉川元偉先生(元OECD大使、国連大使)の紹介により、模擬裁判大会後はパリの大江博OECD大使公邸にて夕食会にお招きいただきました。高尾直首席事務官もご一緒し、首相同時通訳の経験など興味深いお話を伺うことができました。OECD職員である宮本さま(ICU卒業生)、田熊さま、Lars Barteitさまも面談の時間をとってくださり、OECD Student Ambassador Programmeの一環として国際機関について理解を深める格好の機会となりました。OECDが現在行っている教育に関する研究にICUの学生が参加する提案もいただき、今後のOECD Student Ambassador Programmeを活性化する可能性が大きく広がりました。そのほか、任意参加の移民博物館見学や、国際大学都市(Cité Universitaire Internationale)図書館訪問なども、大変貴重な機会となりました。
ジュネーブとパリにて重要な国際機関をたくさん訪問することができ、いずれにおいても、積極的に発言をするICU生の態度は非常に高く評価されました。国連や国際機関の現場において、フランス語をはじめとする多言語・複言語がいかに大切か、という点を実感できた点もよかったと思います。JICUF、そしてOECD東京センターの貴重なご支援に心より感謝申し上げます。」
ジュネーブ大会に参加した学生の皆さんにもコメントを寄せてもらいました。(全文はこちらでご覧いただけます。)
山﨑さんは、大会から二つの大きな学びがあったといいます。一つめは、知識量を大きく問われる日本大会と比べ、海外大会では相手にどう伝えるかの姿勢・態度が重視されるということでした。自信を持って堂々と弁論をおこなえるかどうかが、審査に影響することを学んだそうです。二つめは、国際法委員会や自由権規約委員会、女性差別撤廃条約委員会などの会議を傍聴し、重大な決議が採択されるのを目撃したことを通して、将来自分もこのような世界で活躍できる人材になりたいと思ったそうです。
鳴島さんは、国連本部のリサーチ環境の素晴らしさに感動したと述べています。ICUではいくら探しても見つからなかった文献が国連では容易に見つかり、このような環境で心ゆくまで研究してみたいそうです。鳴島さんがもっとも感動したのは、国連で開催されていた重要な会議を傍聴できたことで、特に人道に対する罪などを主権免除の例外とする決議が採択される瞬間に立ち会えたときは「模擬裁判をやっていてよかった」と思ったそうです。また、海外で英語でコミュニケーションできたことは大きな自信になったといいます。
中来田さんにとって、今大会の一番の教訓は「柔軟性が鍵となる」ことだったそうです。模擬裁判だけでなく、国連職員や参加者との交流においても、柔軟性が大切だと学んだそうです。模擬裁判での弁論では、様々な質問に答えつつ主張を全て言い終える難しさに直面し、裁判官から「もっと柔軟に弁論を対応させた方が良い」と指摘されました。また、世界中から集まる職員や参加者との交流においても、相手の宗教や政治的背景に気を遣いながら楽しむいう面で柔軟性が必要と感じたとのことです。
薄久保さんは、「ジュネーブでの経験は宝物です。模擬裁判に参加し、国際法や人権についての知識が深まったばかりでなく、国連職員と交流し、現場に触れ、国連の諸施設を利用することで、人権分野で活動する機関への関心が増しました」と語っています。
最後に、準備に携わりながらもジュネーブの大会には参加できなかったスミスさんは、模擬裁判に関わることが夢だったといいます。書面作成は困難ではあったものの楽しくもあり、ICUが今後も競争の激しい模擬裁判大会に参加し続け、受賞すると信じていると語っています。
松田先生、学生の皆さん、ジュネーブでのご健闘おめでとうございます!
今後もICU生が模擬裁判に参加し続け、貴重な経験を得ることを願っています。